(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会

 今週はユニークなコメディー映画を2本紹介する。まずは、原作・脚本は『超高速!参勤交代』(14)の土橋章宏、監督は『のぼうの城』(12)の犬童一心による“ニューウェーブ時代劇”の『引っ越し大名!』から。

 姫路藩が幕府から日田への国替えを言い渡される。書庫番から引っ越し奉行に任命された片桐春之介(星野源)は、幼なじみで武芸の達人の鷹村源右衛門(高橋一生)、前任の引っ越し奉行の娘・於蘭(高畑充希)の助けを借りながら、何とか引っ越しを成就させようとするが…。

 オリジナルの「引っ越し唄」をバックに、ミュージカル風の趣向も凝らしながら、現代の転勤族やリストラにも通じる悲哀をコミカルに描く。

 今でいえば引きこもりのような春之介が、段々ときりっとした侍になっていく変化を嫌味なく演じた星野、豪快な侍を演じた高橋の意外性の妙にも増して、彼らよりも年下の高畑がしたたかに演じた於蘭が印象に残る。また、殿さま(及川光博)の男色趣味をにおわすあたりも現代的だが、時代劇の生き残りを考えれば、こうした変化球映画があってもいいと感じた。

 続いて、いかにもイギリス映画らしいブラックユーモアを感じさせる『やっぱり契約破棄していいですか!?』。

 売れない作家のウィリアム(アナイリン・バーナード)は、殺し屋のレスリー(トム・ウィルキンソン)と、1週間以内に暗殺してもらう契約を結ぶ。ところがウィリアムの前にキュートな女性エリー(フレイア・メイバー)が現れて…。

 本作の、自殺志願者が美女と出会って生きたくなる、という皮肉な設定は、例えば、フィリップ・ド・ブロカ監督の『カトマンズの男』(65)、山田洋次監督の『九ちゃんのでっかい夢』(67)、アキ・カウリスマキ監督の『コントラクト・キラー』(90)、マイク・ファン・ディム監督の『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』(15)などと同じであり、橋の上で自殺志願者が他者と出会うという出だしは古典落語の「文七元結」にも通じるものがあるなど、決して珍しいものではない。いわば、ブラックユーモアを含んだシチュエーションコメディーとしては一つの典型ともいえる。

 ただ、この映画の新味は“殺す側”にもドラマを持たせて二重構造とした点。ウィルキンソンが暗殺件数のノルマ達成に悩む、殺し屋なのに愛すべきおっさんを巧みに演じて映画に説得力を与えている。監督・脚本のトム・エドモンズは、この映画が長編デビュー作とのことだが、今後に期待を抱かせるような、小品の佳作に仕上げている。(田中雄二)