■圧倒的な画力&大迫力の戦闘シーン

作者の伊藤悠氏はハイレベルな画力も評価されている。いわゆる近年流行の「萌え絵」ではなく、線の1本1本にまで質感があって重厚。キャラクターの表情がまるで本当に生きているかのように、感情をもって描かれているのが特徴だ。とりわけ戦闘中や感動したときなど、キャラクターが生の感情を見せるシーンの顔は必見。単純にデッサン力が高いというだけでなく、原稿に魂を込められる貴重な作家だと思う。

その画力をフルに発揮した戦闘シーンは迫力満点。剣で、弓矢で、火で……傷口から吹き出る血しぶきや断末魔の表情まで異様にリアリティがあり、血の臭いが紙面から漂ってくるような錯覚すらおぼえる。もともと美女としてデザインされているシュトヘルは戦場の中でこそ躍動感いっぱいに輝き、敵を葬るときの艶やかな表情などはゾクリとさせられる。

■あわせて読みたい『皇国の守護者』

『シュトヘル』でこの作者に惚れた人は、ぜひ集英社から全5巻で発売されている『皇国の守護者』も手にとってほしい。こちらは同名の小説(著者:佐藤大輔)を原作にした軍記もので、原作序盤にあたるストーリーをコミカライズしている。

舞台は日本に似た“皇国”という国家がある架空世界。強大な軍事力をもつ“帝国”の侵攻に対し、皇国の軍人・新城がまさしく守護者のごとく大活躍する。主人公の新城は小柄で臆病、ひねくれた性格で軍の中でも鼻つまみ者、だけど頭が切れて戦術の天才という非常にクセの強いキャラクターだ。

領土に攻めてきた帝国に決戦を挑む皇国だったが、無能な上層部のせいで大敗北。敗残兵1万2000名を脱出させる時間稼ぎのため、新城はわずか300名の兵を率いて数万の帝国軍を足止めしなければならない。そんな理不尽な状況が描かれている。貧乏くじを引かされた新城たちは絶望的な中で勇気と戦術、ときには汚い手段も使って戦い続けようとする。彼らは無事に味方を脱出させ、みずからも生き残ることができるか……?

激しいバトルありドラマあり知略あり、危機また危機の連続で、全5巻があっという間に感じられる濃厚なストーリーに仕上がっている。原作小説に多かった過激な表現もほどよく控えめにアレンジされていて、幅広い層にお勧めしたい。 

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。