森義隆監督

小栗旬と岡田将生が主演を務める映画『宇宙兄弟』の森義隆監督が映画の公開を前にインタビューに応じた。

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これまで多くのドキュメンタリー作品を手がけてきた森監督。初の長編映画で絶賛を浴びた『ひゃくはち』は実話に基づいた作品だったが、今回は累計発行部数800万部を超える人気漫画が原作。「映画にしかできないことをやろう」という思いで実写化に取り組んだという。例えば原作では登場人物に内面描写で語らせるシーンが多くを占めるが「それを映画でそのままやってもモノローグだらけの漫画のダイジェスト版にしかならない。逆に漫画になくて映画にあるものは何かと言えば、俳優たちの生身の肉体。俳優に動いてもらうことでそこは乗り越えられると思った」と俳優の表現力への信頼を口にする。

兄・ムッタ(小栗)と弟・ヒビト(岡田)が直接顔を合わせるシーンが決して多くはないのも本作の特徴。だが、不思議と2人を隔てる物理的な距離以上に心理的な意味での“近さ”に強く惹きつけられる。監督は「ドキュメンタリー時代から人物を描く上で一貫したやり方なんですが…」と前置きし、「岡田にカメラを向けつつも、そこにはいない小栗を撮る。逆も然り。2人の人物を撮るときにその間にあるものを撮るということを大切にした。実際、120ほどのシーンの中で2人のシーンは5シーンくらいしかないんですが、観た後に『そんなに少なかった?』と思ってもらえると思います」と自信をのぞかせた。

映画ならではの表現を実現するために、撮影では俳優を追い込んだ。ムッタが子供の頃にヒビトと訪れた原っぱに再び足を運ぶシーンでは、夜中の12時に撮影を開始してテイクを繰り返すうちに「気が付いたら陽が昇っていた」という。一方で「僕自身、頭の中に明確な正解を持ってるわけでもないんです」とも言う。「僕も一緒に迷ってるんですよね(苦笑)。あの原っぱでムッタが『おれは宇宙に行きたい』という内なる思いをセリフで口に出したら台無しになる。彼の中には僕も説明できないいろんな要素が詰まってるはずなんです。『小栗ならもっと行ける。ここで行ければこの先のムッタはもう一段高いところで作っていけるはず』と限界まで粘りましたが、そうやってムッタを一緒に探した過程がその後のシーンでも絶対に活かされていると思います」。

もう一人の主演・岡田に関しては「小栗旬を軸としたときに今、その小栗を本気で嫉妬させられるのは岡田将生」とこれまた絶大な信頼を寄せる。その岡田について強く印象に残っているのは初号試写を観終えての彼の反応だったという。「『感動した』と言うから『どこに?』と尋ねたら『ムッちゃんがこんなに僕のことを思っててくれたことに』って言うんです。彼はヒビトを演じただけでなく、彼自身としても映画の中を生きたんでしょうね」。ドキュメンタリーで生の被写体を撮り続けてきた監督にとって、そのひと言は嬉しい言葉だったに違いない。

『宇宙兄弟』

取材・文・写真:黒豆 直樹