そして、今回の連ドラは、原作にも映画にも共通する“身代わり”という部分を広げて、主人公が最初から2人いるという設定になっている。原作にも出てくる大財閥の孫娘・和辻摩子とそっくりの倉沢さつきという人物がいて、武井咲が一人二役で演じているのだ。倉沢さつきは天涯孤独の孤児で、ショーパブで清掃のアルバイトをしながら暮らしている女性。いつか金持ちになって世の中に復讐することが目標で、体を売ることも厭わない。つまり、和辻摩子とは正反対のキャラクターだ。

初回は、さつきに殺人容疑がかかり、摩子がさつきのアリバイを証明するかわりに、お互いの人生を交換しないかと持ちかけるところからスタートした。以降、摩子がさつきとして生活し、さつきが摩子として生活するようになる。摩子は摩子で和辻家の暮らしに不満があり、お互いが現在の不自由な暮らしから抜け出すための提案というわけだ。ネタバレになるのであまり書けないが、ここからすでに殺人容疑がかかっているということは、事件も2倍になって描かれるのかもしれない。

とにかく、武井咲は、さつきのフリをした摩子を演じながら、摩子のフリをしたさつきも演じなくてはいけないという、複雑な状況になっている。ただ、これを武井咲はかなりうまくこなしていると思う。何より、大袈裟に演じ分けていないところがいい。微妙な表情と雰囲気で差を出しているので、作品全体も安っぽくならない感じで仕上がっている。

ちょっと心配なのは、さつきのフリをした摩子が働くショーパブで、摩子がダンサーたちにいびられるパーツ。こういうのも大袈裟になると安っぽくなるので、丁度いい落とし所で収めて欲しい。ただ、この部分も、メンバーが武井咲、剛力彩芽、福田沙紀、森田彩華など、ほとんどオスカーなので、オスカー内の勢力争いだと勝手に脳内変換して見ると、なかなか面白い。

ちなみに、森田彩華は第8回全日本国民的美少女コンテストで本戦出場。現在、フジ系の『未来日記-ANOTHER:WORLD-』でヒロインを務めている剛力彩芽は同じ第8回大会の二次選考で落選。福田沙紀は第10回大会の演技部門賞。武井咲は第11回大会のモデル部門賞とマルチメディア賞受賞者だ。キャリアと年齢は主演の武井咲が一番下なので、先輩たちからガチでいびられていると思えば、多少大袈裟になっても笑って見られるかもしれない。
あと、『Wの悲劇』で忘れられないのは、薬師丸ひろ子が映画で歌った主題歌だ。松本隆作詞、呉田軽穂(=松任谷由実)作曲の「Woman“Wの悲劇より”」は、あまりにも印象深い名曲なので、これが聞けないとさびしいと思っていた。ところが、連ドラ版でも、挿入歌として平井堅が歌っている。あの曲が最後に流れないと『Wの悲劇』じゃないと思っている人にもやさしい気遣いだ。

とりあえず、原作が好きな人、夏樹静子を読んだことがない人、映画が忘れられない人、薬師丸ひろ子を知らない人、どんな人が見てもどこかには引っかかるような作りになっているので、一度見てみるといいかもよ。

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。