テレビは、視聴者が能動的に携わることがほとんどなく、送り手からの情報が消費されるだけのメディアだ。そこでは勝間が意図したような、商品の価値についての十分な検討など行われない可能性が高い。「勝間和代」という存在を斟酌してくれる親切なユーザーなど、ほんの一握りなのだ。秋元の発言はそういう意味だろう。「カツマー」と呼ばれたファンの中にも、そうした一過性の印象だけで彼女を支持した者も多かったはずである。
 勝間のすごい点は、そうした自分の戦略ミスについてきちんと分析を試みていることだ。第4章「「終わコン」有名人としてのブームが終わるとき」で勝間は、有名人になった人が「過去の人」になる原因をマーケティング理論によって解明しようとしている。このくだりは、すべてのフリーランサーが読むべき個所だ。多くのレギュラーを抱える売れっ子がなぜ消えてしまうのか、といった謎を勝間は解き明かしている。いや、勉強になります!

 現在の勝間は「有名税」を支払わなければならない程度には名前が売れてしまっている。露出が減れば「あの人は今」的な関心で身辺の事情を詮索され、売れ続ければそれはそれでやっかまれる。勝間はそうした後戻りのきかない状況を逆手に取り、「有名人になってしまったこと」さえもビジネスの機会に変えてみせたのである。なってしまったことに愚痴を言わない態度はさすが。いや、強いな勝間和代!

すぎえ・まつこい 1968年、東京都生まれ。前世紀最後の10年間に商業原稿を書き始め、今世紀最初の10年間に専業となる。書籍に関するレビューを中心としてライター活動中。連載中の媒体に、「ミステリマガジン」「週刊SPA!」「本の雑誌」「ミステリーズ!」などなど。もっとも多くレビューを書くジャンルはミステリーですが、ノンフィクションだろうが実用書だろうがなんでも読みます。本以外に関心があるものは格闘技と巨大建築と地下、そして東方Project。ブログ「杉江松恋は反省しる!

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