クリスチャン・ヤルヴィが描く、ペルトとライヒの音世界

2016.5.13 10:50配信
クリスチャン・ヤルヴィ(写真左)、スティーヴ・ライヒ(右上)、アルヴォ・ペルト(右下) クリスチャン・ヤルヴィ(写真左)、スティーヴ・ライヒ(右上)、アルヴォ・ペルト(右下)

才能をぎらりと光らせる期待の俊英がオーケストラを刺激する。──5月の東京都交響楽団定期演奏会に登場するクリスチャン・ヤルヴィは、クラシック音楽の常識に安住しない攻めの姿勢を貫く気鋭の指揮者だ。彼は、音楽家揃いのヤルヴィ家から、指揮界の重鎮である父のネーメ・ヤルヴィ、現代の指揮界を牽引する兄のパーヴォ・ヤルヴィに続いて世に出た才能。なかでもクリスチャンは現代音楽の優れた新作を積極的に紹介したり、オーケストラと民族音楽との共演など、領域を超えた挑戦に意欲をみせたりとアグレッシブな活躍をみせる。いま首席指揮者を務めているMDR響(旧・ライプツィヒ放送響)でも独創的なプロジェクトを展開するほか、世界各地のオーケストラへの客演では個性的な選曲で人気を博している。

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そのクリスチャンが指揮する都響定期Bシリーズでも、現代音楽でも特に人気の高いペルトとライヒの傑作が選ばれた。まずヤルヴィ家の故国エストニアが誇る作曲家、昨年80歳を迎えたアルヴォ・ペルトの作品から、《フラトレス》は静謐のなかに中世音楽のエコーが時空を越えて響くような神秘性が聴き手を包む人気作。そして、彼の代表作・交響曲第3番はヤルヴィ家の父ネーメが1971年に初演、彼に献呈された作品。〈ティンティナブリ様式〉(〈小さな鐘〉に由来する言葉で、シンプルな和声とリズム、テンポが生む静謐が美しいこのスタイルはペルトの名を一躍世界へ広めた)ばかりか、当時ソヴィエト政権の支配下にあったエストニアでは反動的とみなされていた現代的な語法を用いて、強靱な想像力が立ち上がるシンフォニーだ。

そして、今秋80歳を迎えるアメリカの作曲家スティーヴ・ライヒ。音型の反復やずれを巧みに生かした〈ミニマル・ミュージック〉の先達として、リズムと音響の多彩と鮮烈をひらいてきた彼は、クラシック音楽の枠を越えて熱狂を呼ぶ存在だ。今回は2曲、まずグシュタード音楽祭(現在クリスチャンが音楽監督を務める)による委嘱作、2つのヴァイオリンと弦楽オーケストラのための《デュエット》は、クリスチャンも「輝き、陽光、愛、自信に満ちた、おそらく最も美しいメロディを持つ作品のひとつ」と激賞する作品。そして「4楽章からなる交響曲のよう」な《フォー・セクションズ》は、「真実を探究する旅」のようだとクリスチャンも語る。さまざまな変容の先にひらける「非常にパワフルで魅力的な」終楽章、オーケストラの巨大な昂揚に包まれる体験は生演奏でしか味わえないものだろう。

まったく異なる個性をもつ作曲家ふたり、しかし「本質的には彼らの音楽は精神的に合致しています」とクリスチャン。人間性を問い、高い理想を追求する表現の道のり──その挑戦と喜びを、俊英指揮者とオーケストラとが興奮と共に分かち合うステージ、楽しみにしよう。

5月18日(水)、東京・サントリーホール 大ホールにて。

文:山野雄大(音楽・舞踊評論)

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