児玉麻里 (c)sho kato

毎年海外の名門オーケストラを招いて開催される「東芝グランドコンサート」。39回目となる2020年は、スウェーデンのエーテボリ交響楽団が、1985年生まれの新鋭指揮者サントゥ=マティアス・ロウヴァリとともに来日する。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番で共演するのが、パリを拠点に世界で活躍するピアニスト児玉麻里だ。「めったにない、素晴らしいアンサンブルで演奏するオーケストラです」

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じつは児玉とエーテボリ交響楽団のつながりは密接だ。というのは、彼女の夫である指揮者ケント・ナガノが、2013~2017年に首席客演指揮者と芸術顧問を務めていたから。彼女自身も3年ほど前に、20世紀初頭に楽団の首席指揮者でもあった作曲家ヴィルヘルム・ステンハンマルのピアノ協奏曲を共演している。「海辺の街らしい、とても明るく勢いのある街です。その雰囲気はオーケストラにも通じていて、スカンジナビアらしい深みに、明るい勢いも持ち合わせたオーケストラです。そしてホールが素晴らしいんです。音響が良いだけでなく、バックステージに、楽員がアットホームに過ごせる環境が整っています。無料のカフェやバー、そしてたくさんのとてもきれいな練習室。みんないつもそこに入り浸って、大家族みたいな感じなんですよ。だから音も全員で一緒に作っているという感じで、和気あいあいとしたアンサンブルを聴かせてくれるのです」

今回来日する指揮者ロウヴァリとは初共演。「とても楽しみです。よい噂しか聞きません。若くて勢いを持っているうえに、とても真面目で、すでに成熟した音楽家だと話題ですね。日本公演の前に2月にスウェーデンで同じプログラムを弾く予定です」

ベートーヴェンの初期作品であるピアノ協奏曲第2番は、じつは第1番より先に作曲された、実質的には最初のピアノ協奏曲だ。「よくハイドンみたいで軽いと言われるんですけど、私はどちらかというと、すごく芯のある作品だと思っています。とても男性的。若いベートーヴェンの、理想と元気と夢が全部混ざった、とても機嫌のよい曲です。もちろんショパンみたいにフレキシブルに動いてはいけませんが、でも動かないと面白くない。動かないようで動いているような「間」。そのタイミングを、オケのひとりひとりと指揮者とソリストでやりとりして、同じ言葉で会話できれば、毎回舞台の上でちょっと違うことができます。そうなると、大きな室内楽みたいで、お客様も楽しいですね」

思い入れがあるというこの曲。フォルテピアノで弾くために時代楽器の巨匠アンドレアス・シュタイアーにレッスンを受けたり、協奏曲全曲プロジェクトのときには、かねてからの師であるアルフレート・ブレンデルに夫婦で教えを受けたりと、すでに十分なキャリアを重ねてなお、謙虚に学ぶ誠実な姿勢を崩さないのは素敵なことだ。児玉が出演する公演は2020年3月に広島、東京、仙台で。楽しみでしかない。

取材・文 宮本明