北条氏直役の細田善彦

 NHKの大河ドラマ「真田丸」で、北条氏直を演じている細田善彦。名門北条家の5代目当主となったが、隠居した父、氏政(高嶋政伸)が実権を握り無力感にさいなまれる。父との確執や主人公、真田信繁(堺雅人)らとの激しい戦いを語る。

-どういうことを意識して演じましたか。

 育ちがいい。世間知らずで苦労知らず。それが映像に映ればいいなと思いました。

-三谷幸喜さんの台本を読んでどう思いましたか。

 怒ってばっかりだなって(笑)。だからその怒り方は、父上の色を残しつつ、その都度、どういう感情を乗せるかを考えました。例えば真田昌幸(草刈正雄)らと対峙(たいじ)する時は、彼らを虫けらのように見ようと思ってやりました。

-父親の氏政に対してはいろいろな思いを抱えていそうですね。

 エリート教育をされてきた氏直は情報が北条家の中からしか得られないし、父の戦法や怒り方しか見ていないから、最初のころは氏直の怒り方の中に父の影が出ればいいと思って演じていました。ただ、小田原城が攻められるあたりでは、氏直もさすがに父のしていることを正しくないと思っているけれど、それをどう言っていいのか分からない。だから、「何か違う」という表情が出せればいいなと思います。氏直は今後、トップである父の頑固さと下からの突き上げで、現代で言えば中間管理職的な立場になって、追い込まれていきます。そこを楽しんでいただけたらと思います。

-北条家は、氏政と氏直、そして板部岡江雪斎(山西惇)。この3人のシーンが多いですね。

 2人はパパとママみたいな関係でしたね(笑)。江雪斎は父に対している氏直をずっと見守ってくれているお母さん。だからちょっとした本音も言えるんだと思います。

-氏直を演じた経験をどう捉えていますか。

 長い作品ですし、みんなが結末を知っている歴史の物語の中でいかにその人物を成長させていくかということを初めて経験しました。現代劇と違って、時代劇、特に人の上に立つ人物を演じるような時は、姿勢やおじぎなどアクション一つ一つが大きな意味を持ってくるということを痛感しました。

-役者として氏直を生き抜いての率直な感想は?

 非常に寂しいという気持ちが一番大きいです。本当に泣きそうになりました。それに高嶋さんには本当に仲良くしていただきました。最初のリハーサルの時は「恐ろしい父親だなあ」と思っていましたが、高嶋さんは本番直前までずっとせりふを練習されていて、撮影本番が終わってもずっと何かご自分の演技についておっしゃっている。半年間ずっと北条の形を模索されていました。汁かけ飯にしてもリハーサルをとても入念にやられる方なので、僕も背筋が伸びて、しっかりやらなきゃという気になりました。

-堺さんと共演した感想は?

 氏直が信繁にすがりつくシーンで、頭は下げたいと思っていたんですけど、堺さんは「氏直が頭を下げた瞬間に、信繁の方から近寄る」という動きを提案して、ただ座って対峙していたのを、動きのあるシーンに変えてくださいました。助けていただきました。

-大河ドラマは特別な経験でしたか。

 出演されている方一人一人に思い出がありますし、こんな中に参加させてもらえているのはうれしかったです。それと先月、別の作品で埼玉でロケをしていた時に、年配の方に「氏直、氏直」って声を掛けていただきました。連続テレビ小説か大河ドラマに出ない限りはそんなことないですからね。氏直のイメージがあるのか、「そんなにかっかしないの」って言われて笑ったら、「あんた笑顔の方がいいわよ」って(笑)。それだけのめり込んで見てくださっているんだと思って、うれしかったです。