"ヤンキーリスペクト"な心優しき少女/『田中くんはいつもけだるげ』の越前

だらけること以外は何をやるにも無気力で、直ぐに居眠りを始めてしまう"眠たがり"の男子、田中くんと、そんな田中くんを保護者的に見守る太田くんの男子高校生2人のやり取りをメインにしたコメディ作品『田中くんはいつもけだるげ』。

本作は、大ヒット作『のんのんびより』を世に送り出した川面真也監督作らしく、「間」をタップリと意識したオフビートな笑いが楽しめるアニメ作品です。

劇中には、物語の軸となる田中くんと太田くんの名コンビの他にも、元気一杯のハイテンションな女の娘、宮野さんや、一見すると才色兼備ながらもその本質は地味な性格の眼鏡っ娘な白石さんなど個性的な女性キャラクターが多数登場しますが、ここでは、ヤンキー少女の越前さんを猛プッシュさせていただきます!

『だがしかし』のサヤさんと同じく、黒目が極端に小さい三白眼に金髪のショートカットと耳には大量のピアス、更に、70年代のスケバン女学生か、はたまた『ビー・バップ・ハイスクール』イズム溢れる80年代不良ファッションを思わせる超ロングスカートというビジュアルの越前さんは、「ヤンキーをリスペクトしている」という謎のモチベーションのもと、日々、突っ張った言動に勤しんでいる女の娘です。ちなみに、胸はかなり控え目です。

とはいえ、その心根はとても優しく、純粋な女の娘であり、しかも、実は可愛いものが大好きで、ちみっこい宮野さんとも親友同士という意外性を持っている娘さんでもあります。

一見すると目付きが悪い不良でありながら、その実は、非常にピュアで可愛らしいものに弱い越前さんは、ヤンキーっ娘特有の"ギャップ萌え"に満ちたキャラクターであり、劇中での越前さんを巡るエピソードの数々も、その"ギャップ"に焦点を当てた描かれ方がされています。

動物の形をしたパンやクッキーが可愛すぎて食べることができなかったり、その人柄の良さで近隣住民に慕われていたり、時には年頃の女の娘らしく異性の目に対して敏感になってみたり……こうした、チャーミングでピュアな内面と昭和ヤンキー感溢れるルックス、その相反する魅力が内在した越前さんはヤンキーっ娘の一つの理想像的なキャラクターといえるでしょう。

己の美学を貫き通す越前さんの生き様と、その一途さの合間に時折見せてくれる女の娘らしさ。その二面性こそが、越前さんの最大の魅力なのです。

『田中くんはいつもけだるげ』は、非常に丁寧に作られたコメディアニメですが、こうしたキャラクターの描き方も、そのウェルメイドな作劇と同じく、とても作り込まれています。キャラクター描写の巧みさと共に、越前さんの魅力をジックリと味わいたいところです。