串は出てくるのに時間がかかる。かかる分だけえらく旨い。
中に火が入りきったぎりぎりの焼き加減。ふは~ってな味わいである。
もずくもえらくうまい。しゃこしゃこした歯ごたえに手打ち麺のような弾力だ。
などと自分と語らうのも飽きてきて、人様の会話に耳を傾ける。
「フェイスブックは皆自分を大きくみせがちだ」なるほどなるほど。
「あいつはクライアントでも友達になったもん勝ちだって思ってるから酒飲むと
お偉いさん相手でもすーぐ肩組むの。俺は嫌いだね」なるほどね。
「俺はポジション的には阿部サダヲで行きたいわけ」お、それわかる。
ほとんどが常連の一人飲み客で入れ替わり立ち代わり顔見知りが来る。
ハニカミもないくせに社交性もない己にはそんな景色がうらやましい。

 

などと思っていると、ふとカウンターがすき始めた。
隣の作業着のおっちゃんが、黙々と一人飲み食べる私の存在に気づいたらしい。
「しめ鯖ください」と言うと、おっちゃんが店員にかわり「売り切れ、
数少ないのよ。ボクは焼き鯖を頼んだよ。ほら今焼いてるとこ」と話しかけてきた。
見ると、焼き台でうまそうな鯖が煙をあげている。
つけあわせか、シブい板さんがわしわしと大根をおろしている。
「そんなメニューがあるとは…!」とここぞとばかりにおっちゃんと
会話を楽しもうとした瞬間、妙齢のきれいな姉さんが「今晩わ~」とやってきた。
おっちゃんとこちらも顔見知りらしい。
すると、彼は急に私に背を向け会話をまさかの強制終了、
そのうえ私からさりげなく距離をとり、私の横に姉さんを手招きする。
その動きは「一人酒の女にからまれちゃったボクを助けて」の図だった。