「あら、いいの? どこでもいいわよ私」
「いやいやこっち来てこっち」
明らかに避けられたていの私は、焼酎メニューに全力で集中した。
わ、私が何かしました? 告白してもいない相手に振られた気分である。
空気を変えようと「鎌倉酒店って名前ですけど、鎌倉出身なんですか」と
サエコに聞くと、
「違うんです、鎌倉は店主の名字で紀州出身なんですよ」と言う。
なるほど、通りで紀州の梅酒が十種以上も揃っている。
はたと「ばばあの梅酒」と書かれた別メニューを見た。
ふいに懐かしさがこみ上げた。
かれこれ4~5年前だろうか。ガード下酒場探検コラムを書いていた時に、
もうめぼしい店は行き尽くした…。もうネタは尽きた…。連れはいないし、
締め切りだけが迫り来る、そんな孤独と戦いながら一人神田をさまよっていたところ、
「梅酒Bar」なる看板を見つけ、おずおず入ったところ
ずらりと並ぶ「ばばあの梅酒」(紀州鶯屋)ボトルに出会ったのだ。

エッジのきいたばばあのイラストに、エスプリ溢れるコピー。
こんな梅酒見た事ないぞ…!と感服し、その日も一人で痛飲したのだった。
味はすっかり忘れたが、当時のことを突然思い出した。
するとサエコが意外なことを言うではないか。
「このばばあってモデルがいるんですよ。あそこで焼き鳥焼いてる人(板さん)
のおばあちゃんなんですよ。絵とコピーも彼が描いてるんです」
顔、顔が似てる。ばばあの血が確かに板さんの顔面にほとばしっていた。
私は梅酒のソーダ割りとさらに串を追加し、ひたいに汗する板さんを見つめた。
なんだか遠い国で出会った友と年月をかけて再会したような気分だ。
もはや、ハニカミのない私はばばあの孫にツーショット写真を申し込んだ。
「おお、いいすよ」と笑う顔はばばあクリソツ。