舞台『さけび』 山路和弘、朴ロ美 撮影:阿部岳人

演劇プロデュースチームLALSTORYによる舞台『さけび』が、本日、新宿サンモールスタジオで初日を迎えた。テネシー・ウィリアムズによる二人芝居だが、日本での上演記録はほとんど無いという稀な作品。演出は東憲司(劇団桟敷童子)。出演は、山路和弘と朴ロ美という、演劇界のみならず声優としても人気を博す、どちらも巧者だ。

【チケット情報はこちら】

客席へ着くや、まずその舞台美術に圧倒される。小劇場ではしばしば我々観客は、舞台の目に大きく映るものだが、今作のセットの存在感は別格。客席は舞台に支配され、「しっかり見ているからな」と突きつけられる感覚がある。大胆なデザインは「誰も見たことない舞台」と謳うだけのことはある。

物語は、山路演じる、劇作家であり俳優のフェリースと、その妹であり女優の、朴演じるクレア、このふたりのもとを、劇団の仲間が「あなたと妹さんは狂っている!」と電報を残し、旅先の劇場から突如去ってしまったところから始まる。公演の中止を訴えるクレア、それに対しフェリースは「ふたりだけの芝居」を上演することで頑なに公演を続けようとするのだ。出番を待つ俳優の舞台裏を描いたように見えるが、いざ「ふたりだけの芝居」が始まると現実なのか虚構なのか、まるで判断のつかない混沌の世界が展開していく。

しかしこのふたり、仲間に逃げられたのではあるが、捨てられた、取り残された存在だという印象がない。むしろ自ずと世間から離れたような気高さを覚える冒頭、擦り切れそうな“叫び”をあげ、まるで漂うかのように舞台を操る山路と、張り裂けんばかりの声を轟かせ、登場するや否や発せられるエキセントリックな反応を魅せる朴から目が離せない。

何よりも面白いのは、公演を続けるか否かを巡る序盤では、我々は傍観者、いや、ある一種の監視者のようにフェリースとクレアを俯瞰視していたはずが、中盤以降はいつの間にかふたりと同じ視点で社会と体制への不安に共感してしまっていることだ。そして終盤、ずるずると作品に引き込まれ、脳と心を揺さぶられ、魂まで吸い取られた我々の顔を、フェリースとクレアが眺めているのだ。これはもう、本当にずるい。見ているつもりが、見られていたのだ。開演前、客席に着いたときに覚えた感覚が蘇り、ゾクゾクする。

山路と朴のひたすら烈しく打ち合うセリフの応酬。朴が発する鋭い言葉をぶっ太い釘と例えるならば、山路は金槌かの如く、その釘をこちらの心臓に打ち付けてくる。「手元が狂った」といわんばかりに金槌が直に胸を打つときもある。本気の言葉のぶつけ合いは、「男女の」と単なる言葉だけでは言い表せないが間違いなくラブストーリーと言えるだろう。衝撃が小空間に詰め込まれた圧巻の作品をぜひご覧頂きたい。

公演は10月27日(日)まで、サンモールスタジオにて。チケット発売中。残りわずか!

取材・文:山村敬男