五反田一郎役の及川光博

 二人の妹と母を守って奮闘する小橋常子(高畑充希)を描く連続テレビ小説「とと姉ちゃん」。長く苦しかった戦争も終わり、常子はついに念願の雑誌を作るべく新たな一歩を歩み始める。そんな常子の戦後の運命を大きく変えるきっかけともなるのが、及川光博演じる五反田一郎。常子が勤める甲東出版のメーン編集者で、いい女と見れば手当たり次第に口説き始める一風変わった人物だ。初の朝ドラ出演となった及川が、撮影現場でのエピソードを交えて役へのアプローチ方法を語った。

-五反田を演じてみた感想はいかがですか。

 軽薄なだけでなくやるときはやるという、さじ加減が難しい役どころです。また戦中の、男尊女卑の時代には珍しいフェミニストで、女性に優しいキャラクターです。とは言え、一言で言うと女好き。全く僕の引き出しにはないキャラクターなんですけど(笑)。五反田くんがペラペラしゃべる男なので、長いせりふを覚えるのには多少苦労はしますが、撮影が深夜に及ぶ時も甲東出版の皆さんとわいわい楽しくやっています。

-女好きという設定ですが、演じる上でのポイントはありますか。

 監督の指示でもあるのですが、五反田は女性に対して物理的に距離が近い男なんです。耳元でささやいたり、常子ちゃんが「近い」「近い!」とのけぞるぐらい距離を縮めていく。「朝ドラではこれってどうなのかな?」とも思ったりもしますが、そこはかとなく“夜の匂い”を漂わせながら演じています(笑)。

-五反田さんは面白い方ですね。

 とは言っても、五反田くんは小説をしたためているようなタイプでございまして、戦後は自ら小説家として連載を始めるという変化もございます。特に、徴兵されて出征していく時の心模様…、常子との別れのシーンは、実際に演じてみて胸にこみ上げる何かがありました。

-今回の役は及川さんにぴったりの役という印象を受けます。

 そうかな。実際の僕は女性に対してそこまで距離を縮めたりはできません。もうドキドキしちゃって…。実際の僕とかけ離れているキャラ? そうですね…。「及川光博」とは違いますけれど、「ミッチー」とは似ているところがあると思います。何だそれ…(笑)。

-五反田は、常子に「あなたの暮し」の編集長となる花山伊佐次(唐沢寿明)を紹介する重要な役どころでもありますね。

 はい。そういった意味では、物語のキーパーソンです。もちろん全部後からやって来る花山伊佐次に持っていかれるんですけど(笑)。要は、中継ぎです。五反田の立ち位置ですか? そうですね、常子くんのファンクラブ代表といった感じですかね。

-花山役の唐沢寿明さんとの共演はいかがですか。

 出会って15年近くになりますけど、共演もなぜだか多くすごく縁のある方です。簡単に言うと兄貴分ですね。プライベートでも仲がいいということもあって、テスト中も本番中も、ああだこうだ、とからかわれたり、駄目出しされることもあります。収録後はよく飲みに行きます。

-唐沢さんが演じる花山はどうですか。

 気迫十分ですよ。彼はもともとストイックですし、全く現場に台本を持ち込まない。要は準備万端で挑む方で、その仕事っぷりは出会った時から変わらない。学ぶところが多いです。今回の花山のような強烈なキャラクターを演じることに対してワクワクしているのが伝わってきます。

-主演の高畑さんの印象はいかがですか。

 愛らしいですね。充希ちゃんには、いつも会うたびに「本当に分かりやすい顔のパーツだね」って声を掛けています。褒め言葉ですよ? 僕と違って目がクリっとしていて、心の動揺が目の表情で見て取れる。これは演技者としてとても恵まれた才能だと思います。そしてとても賢い子です。

-朝ドラ初出演に関しての感想はいかがですか。

 僕はついこの間、デビュー20周年を迎えたのですが、当然、駆け出しのころは朝ドラに出るなんて想像もしていなかったんです。欲張って「もしかして朝ドラに出られるんじゃないか?」って虎視眈々(たんたん)と狙っていると、出られなかった時にすごく悔しいじゃないですか。だから、想像もしていなかったこの現実を非常にうれしく思っています。

-今後の見どころを教えてください。

 常子がいよいよ、自分で会社を立ち上げますが、その奮起に至るまでのエピソード、そこからの冒険ですね。それがこの「とと姉ちゃん」という作品のメーンですから。女性が戦後に会社を立ち上げて雑誌を作る。多くの人との関わりの中で常子が目覚めていく。まあ、例えて言うならば『ガンダム』におけるアムロ・レイなわけです。激動の時代の中で目覚めていく才能…。ニュータイプ。分かりますか? そういった複合的に楽しめる「とと姉ちゃん」、「後半戦、行ってみよう!」という感じですね(笑)。