松川さんの作品は、まるで写真かと思わせるような精密なペインティング。

松川朋奈
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、東京、2016年
撮影:永禮 賢
写真提供:森美術館

同世代の女性たちに会って、今の暮らしや将来の夢など、彼女たちのことを取材したうえで描いています。

作品のタイトルも「昨日も化粧を落とせなかった」「理由なんて特にないの」など、話している中で出てきたフレーズを使っているのだそう。

この作品から見えてくるのは、現代の女性たちの等身大のリアルな姿です。

今回展示された作品は大部分が六本木で働いたり、住み始めたりした女性がモデル。
松川さんは彼女たちに取材する中で、本人すら気づかなかったしぐさや癖などを象徴的に描いています。

取材で撮影した写真そのものをトレースするのではなく、作品のテーマが最も効果的に伝わるように様々な要素を組み合わせて再構築しているそうです。

絵画で描くことによって、モデルになった女性たちの感情や痕跡、過去や未来の物語が浮かび上がって見えます。そして鏡のような光沢のあるキャンバスに映り込む鑑賞者自身が絵の中に描かれた彼女たちとどこか重なる部分を感じるかもしれないとも語っていました。

さまざまな形で見せる「多様性」

キュレーターの小澤さんからは、「現代アートは今の時代と響き合うアート」である、というお話や、展覧会のテーマとなっているキーワードを意識して作品を観ていくと、鑑賞の幅が広がるといったお話もありました。

また、高山明さんの作品のモニターの置き方にも意味があることや、藤井光さんの作品の入り口の壁紙の色にもメッセージが込められているなど、参加者の皆さんは作品を理解するヒントを得て、自分なりに解釈を深めていく経験もできたようです。

さまざまな形で「多様性」を表す作品が展示されている中に、見る人が参加することでメッセージを発信しようとする作品も。野村和弘さんのインスタレーション「笑う祭壇」は、観客が的に向けてボタンを投げるというもの。

「投げる」際に不安定な身体の「バランスを取ろう」とする潜在的な力に気付かせ、ボタンが地面に無秩序に広がった様子は私たちは日々社会や他者との不確定な関係の中でバランスを取りながら生きていることまでも思い起こさせます。

笑顔でボタン投げに挑戦していた参加者の皆さんも、ご自身の日常生活を振り返って、「確かにそうかもしれない」と感慨深い表情に。