皆さんは、ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)というレースをご存知でしょうか。これは、ヨーロッパアルプスの最高峰である「モンブラン」のある、フランス・スイス・イタリアを駆け抜けるトレイルレースです。

総距離はなんと170km。獲得標高10000mのコースを46時間30分以内に走ります。
※数字は2016年度。

実はこのレースは、ほんの13年前に始まったもの。第1回大会には711人がエントリー。しかし、たった67人しかゴールできませんでした。

モンブランをぐるっと一周まわる美しいコースかと思いきや、実はこれが意外と大変なレースだったことが判明。その難しさが逆にランナーの心を揺さぶったようで、翌年度から申し込みが殺到。世界中のトレイルランナーが憧れるレースの一つとなりました。

これまで日本からも多くの選手が参加していますが、その中の一人に山本健一選手(愛称ヤマケン)がいます。ヤマケンは、高校教師として教壇に立ちつつ、様々なレースに参加しているランナー。2009年の初参戦時に8位入賞し、2010年にも10位に入賞。自著『トレイルランナー ヤマケンは笑う』で、その当時のことを振り返っています。

そもそも、UTMBへの参加を決めたのは、すでに同レースを経験していた石川弘樹さんら日本のトップ選手らが「いいレースだぞ」とヤマケンに伝えるようになったから。

先輩たちのアドバイスもあって、同レースにはマイペースで挑めたそうです。スタート時も気負うことなく気楽に。「足を残しておけ」という言葉を信じ、序盤はゆっくり走ることを意識していました。

同レースのスタートは夕方ですので、あっという間にあたりは暗闇に包まれてしまいます。すると、五感を研ぎ澄ませながらレースに挑む時間帯に。

「激しい急登に対峙すると、思わず叫び声をあげてしまう。自分の意志とは関係ないように“思わず”声が出ることが楽しかった」『トレイルランナー ヤマケンは笑う』

と、同書で振り返っています。

とはいえ、夜中の山道はそう簡単なものではありません。霧が襲いライトを照らして道が見えない。さすがに眠気も襲ってきますし、登り道の苦しさが体を襲う。ヘッドライトで道を照らしながらゆっくり進むも、意識が飛んでしまいそうなことがあったようです。想像するだけでも過酷なレース。

そして、そんなタフなレースに一人で挑戦しているヤマケンに変化があったのは明け方……。