森西栄一役の角田晃広

 事務総長の田畑政治(阿部サダヲ)を中心に、1964年の東京オリンピックに向けて精力的に活動する組織委員会。その一員として「聖火リレー踏査隊」に参加し、アテネからシンガポールまで2万キロを自動車で走破、陸路での聖火リレーの可能性を検証したのが森西栄一だ。平凡なタクシー運転手から、自ら志願して組織委員会に加わった異色の存在を演じるのは、人気お笑いグループ“東京03”の角田晃広。実は序盤にタクシー運転手役で出演しており、森西役は本人にとってもサプライズな展開だった。その起用の舞台裏、役に込めた思いを聞いた。

-序盤にタクシー運転手役で出演されていましたが、森西役というのはご存知でしたか。

 全く知りませんでした。第1回と第6回にタクシー運転手役で出演したときは、それで終わりだと思っていましたから。帰り際、スタッフさんとの会話で、「ひょっとしたら、時代が変わって、終盤になったらまた出番があるかも」とは聞いていましたが、「またタクシー運転手かな…?」と思っていた程度で。

-森西役と聞いたときのお気持ちは?

 話を聞いたのは、撮影に入る2カ月ぐらい前です。事務所の方から「出番がありそう」という話がきて、「また運転手役だな」と思っていたら、「組織委員会に入る」と聞き、「はぁ!?」と(笑)。「どういうこと? 別の役?」と聞いてみたら、事務所の方もきちんと把握していなかったので、マネジャーに確認したところ「タクシーの運転手なんですけど、その方が委員会に…」という話だったので、思わず「どうやって?」と聞き返してしまいました。その後、改めて「聖火リレー踏査隊の森西栄一さん」という説明を聞き、ようやく事情が飲み込めた…という感じです。

-台本を読んでみた感想は?

 まさかこんなに物語に深く関わるとは思っていなかったので、最終回に向けて結構、重要な役になることを知ってびっくりでした。

-阿部サダヲさんとは第6回でも共演していますが、森西役で現場に戻った時の反応は?

 森西役で撮影に入る前、僕が別の仕事でNHKに来ていたとき、ちょうど撮影中の阿部さんと遭遇したことがあったんです。「まだ撮影やっていますよ」と話してくれたので、「僕もまた来月ぐらいから戻れるみたいです」と言ったら、阿部さんが「えっ!?」と(笑)。そこから「何の役?」「なんか、委員会に入るみたいで…」「委員会!?」というやり取りがあり…(笑)。撮影に入ったときはお互いに事情を理解していましたが、その時点では阿部さんも「はぁ?」という感じでした。

-森西さんに対する印象は?

 タクシー運転手から組織委員会に…というのは物語上の設定かと思ったら、実話なんですよね。劇中で、自分から「やらせてください」と申し出るシーンがありましたが、それも実話。だから、自分からどんどん道を切り開いていく方なんだなと。そういうイメージを頭の片隅に置きながら演じています。

-志願して聖火リレー踏査隊に加わった森西さんの思いを、どんなふうに理解しましたか。

 たまたまタクシーに乗ったお客さんに、自分から「やらせてください」とはなかなか言えませんよね。オリンピックが国民的な行事ということで、「できれば参加したい」という思いがあったのかもしれません。それに加えて、森西さん自身がいろいろなことに興味を持ち、行動力のある方だったから、できたことなのかなと。しかも、調査の結果「ギリシャから陸路での聖火リレーは無理」という結論になりましたが、森西さん自身はこれがきっかけでサファリレースにはまったそうです。だから、苦労しただけでなく、楽しさを感じる部分もあったのではないでしょうか。

-森西さんのご家族に会う機会はありましたか。

 撮影を見学に来たご家族が、実際に森西さんの使われていたネクタイを持ってきてくださったので、それを締めて撮影しました。そのとき、改めて「僕は森西栄一なんだ」ということを再確認し、重みを感じました。ただその分、「NGは見せられない」というプレッシャーがありましたが(笑)。

-ご家族の感想は?

 実は森西さんご本人は、眼鏡を掛けていないんです。でも、第1回の時に掛けてしまっているので、そのまま行くことになって…。だから、眼鏡に関してはご家族に「ごめんなさい」と謝りましたが、娘さんからは「角度によっては、ちょっと似ている」とおっしゃっていただけました。1歳の頃に森西さんが亡くなっているらしく、「動いているお父さんを初めて見た」とも言われました。

-撮影現場の雰囲気はいかがですか。

 皆さんのテンションがものすごいです。皆川(猿時/松澤一鶴役)さんなどは「よく出せるな…」と思うぐらいの声量なので、僕も負けないように頑張っています。ただ、阿部さんのテンションの高さに引っ張られて時々、森西を忘れて、東京03の角田としてリアクションしてしまうこともありますが(笑)。でも、そんなふうにやり合うのは楽しいですね。

-物語の中で、オリンピックに向かっていく当時の空気を体感してみた感想は?

 第1回に出演したとき、建設中の高速道路を指して「空中道路」というせりふがあったんです。オリンピックに向けて、全てが今までとは違う状態に変わる時期だったということは、そのときから感じていました。改めて組織委員会に加わってみると、これは中途半端な熱量ではできないことだな…と。関わってきたいろいろな方々の情熱が、全て同じ方向を向いていないと、とても実現できるものではありません。そう考えたら、来年の東京オリンピックも大変でしょうけど、当時はそれ以上だったんだろうな…と。

-大河ドラマを経験して、今後の俳優業に対する意欲は?

 お笑いが本業なので、そんな大それたものはありませんが、朝ドラの「半分、青い。」(18)にワンシーン出演したときは「朝ドラ出演者」とアピールできたので、今回はさらに「大河ドラマ出演経験あり」が加わりました。これから大々的に押していこうと思います(笑)。

(取材・文/井上健一)

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