美輪明宏 撮影:御堂義乗 美輪明宏 撮影:御堂義乗

東京では2年ぶりとなる美輪明宏の「音楽会」が9月から始まる。その間、全国で歌いながら、あるいは、子ども番組などのテレビに出演しながら感じ取ってきたことが、今度のプログラムには盛り込まれる予定だ。それぞれの選曲への思いを語る美輪の根底には、人をやさしく見つめる眼差しがあった。

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「今、各地で歌っていて感じるのは、みなさん、心の安寧を求めていらっしゃるということです。目先の欲にかられていると言われようとも、生きるために必要なことを選び取るしかない生きづらい世の中で、みんな生きることに精いっぱいなんだなと感じます。ですから、少しでもみなさんのお役に立てる、心の栄養補給になるような歌をお届けできたらと思っているんです」。2016年の音楽会について、まずそんなふうに語った美輪。ここのところずっと、“生きる”というテーマが自身のなかにあるそうで、今回は、生きる力になる歌を選んでいくつもりだ。

たとえばそのひとつは、美しいメロディを持つ曲。「日本にはかつてきれいな曲がたくさんありました。そういった聴くだけで心が穏やかになるような曲を求めていらっしゃるのがわかるので、古臭いと言われても、歌っていこうと思っているんです」。今年の春から、監修を務める齋藤孝氏に請われて『にほんごであそぼ』(Eテレ)に出演していることも、その志を後押しした。「むずかしい和歌や俳句を理解する子どもたちに感心するとともに、ユーモアたっぷりの演出もすばらしいと思ったんです。そこで、昔よく歌われた明治時代の歌で、ほんわかした気持ちになっていただければなと思っています」。ほかにも、第一部には、今のお父さん・お母さんの悲哀を歌ったオリジナル曲も登場。そして、『ヨイトマケの唄』でそれでも力強く生きていこうと励ましてくれる。

ラテンやシャンソンの大人の歌で愛の深淵を見せる第二部は、「悲劇の歌もたくさん出てきます。それを聴けば、つらいのは自分だけじゃないとわかるはずです。劣等感や悩み、苦しみ、痛みを持っていない人間はこの世にひとりもいません」と、こちらにも力づける歌を揃える。第二部の舞台美術には星空を用意した。「宇宙に同じ星がないように、人間もさまざまでいいんです。その自然の法則も感じていただければと思っています」。誰にも生きる価値がある。美輪明宏の歌にはそんな懐深い愛が込められている。

美輪明宏/ロマンティック音楽会2016は9月10日(土)から25日(日)まで、東京・東京芸術劇場 プレイハウスで上演。その後、全国を周る。

取材・文:大内弓子