撮影:稲澤朝博

Netflixオリジナル映画で衝撃のヒロインに挑戦

190ヶ国で配信され、世界中を震撼させている鬼才・園子温監督のNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』。

本作で衝撃のヒロインを演じて鮮烈な女優デビューを飾った、園子温ワールドの新たなミューズ・鎌滝えりを直撃!

ほかの映画とはまったく違う想像を絶する撮影の裏側からその素顔、未来のビジョンまでたっぷり語ってもらいました。

『愛なき森で叫べ』

『愛なき森で叫べ』は、『冷たい熱帯魚』(11)、『恋の罪』(11)と同様、実際の猟奇的殺人事件にインスパイアされた園子温監督が、ニコラス・ケイジ主演のハリウッドデビュー作『Prisoners of the Ghostland(仮)』の前に自らのオリジナルシナリオで撮り終えた戦慄のサスペンス・スリラー。

1995年の東京が舞台の本作で、鎌滝えりは天性の詐欺師・村田(椎名桔平)に心を奪われ、どんどん支配されて変貌していくヒロインの美津子をどうやって体現したのか?

そして、手加減を一切しない園子温監督の驚愕の撮影現場とは? 注目の次世代女優による濃密ロングインタビューは驚きの連続です。

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園子温監督の作品で、いちばん好きな映画は?

――『愛なき森で叫べ』の美津子役はオーディションで勝ち取った役ですね。

そうです。私は園子温監督の作品はほとんど観ていたので、園監督の作品のオーディションがあるって聞いたときは絶対に受けたいと思いました。

――園監督の作品では何がいちばん好きですか?

いちばん最初が15歳のときに観た『愛のむきだし』(09)だったんですけど、あれが本当に衝撃的で。自分の価値観を変えてくれた映画だったし、『ひそひそ星』(16)とかもけっこう好きですけど、いちばん衝撃を受けたのはやっぱり『愛のむきだし』です。

――『愛のむきだし』を観て、価値観がどう変わったんですか?

社会の秩序や常識にそんなに縛られなくていいんだ、もっと自由でいいんだっていうことをあの作品ですごく教えてもらって。

何回観たか分からないぐらい観ているんですけど、(ヒロインのヨーコを演じた)満島ひかりさんの独白の聖書のシーンも衝撃的だったから聖書を読み始めましたし、本当に価値観をガラリと変えてくれた映画なんです。

でも、オーディションは受けたものの、まさか自分が美津子役をやらせてもらえるとは思っていなかったので、連絡をいただいたときも“えっ、これって現実なの? 現実であって!”っていう不思議な心境になりました。

演じたのは「25歳の引きこもりでバージン」の美津子

――台本は撮影中にどんどん変わっていったようですが、美津子役に決まって、最初の台本を読んだときはどんな印象を持ちましたか?

初めの台本では、美津子はもっとピュアな役どころだったんですよね。

そんな彼女が暴力によって人間性を変えられていく内容だったんですけど、私は読んだときに美津子はただの綺麗な女性だとは思わなくて。

美津子はなんて孤独な人なんだろうと思ったし、生き方が不器用な彼女には私も共感するところがあったんです。人を愛せないのは、自分を愛してるからなんですよね。

だから、美津子はどんどん自分を孤独にしていっちゃうんですけど、そこがキャラクターとしても女性像としても面白いなと思いました。

――美津子にまずは惹かれたわけですね。

そうですね。あと、園子温監督は映画愛がすごく強い方なので、セリフの端々に“映画って素晴らしいものになんだよ”という想いが散りばめられていて。

私も映画が好きでお芝居の世界に入ったので、そのセリフを読んでいるだけで胸が本当にいっぱいになったんです。

――でも、とんでもない展開になっていきます。

最初はピュアな美津子が洗脳されて、ひとりの男を愛して死んでいくという展開だったんですけど、撮影中に人柄や人格が180度変わっていったから、美津子を演じるのが精一杯で、私自身も彼女がどういう人間なのか、いま、どんな状況に置かれているのか分からないぐらい追い込まれていったんです。

なので、完成した作品を観たときはビックリしました。あのとき、監督が言っていた美津子の人格はこういうことだったんだ!って、後から気づくことも多かったですね。

「撮影現場が楽しくてしかたがなかった」理由

――劇中には死体の解体シーンも出てきますけど、抵抗はなかったですか?

なかったです。

残虐なシーンも多いですけど、あの解体のシーンで人間の別の一面を表現しているのはスゴいなと思いましたし、撮影現場でああいうことをやっていると、それが現実なのか何なのか分からなくなってきちゃって、ふとした瞬間に笑えてきたりもするんですよね(笑)。

だから、人って不思議だなと思って。いまとなっては、そういう体験ができた貴重な撮影だったなと思います。

――撮影中も「現場が楽しくて楽しくて仕方がない」とか「ここにいられるだけで楽しい」って言われていましたね。具体的には何が楽しかったんですか?

大変な日々ではあったんですけど、椎名桔平さんや(家出少年のシンを演じた)満島真之介さん、(美津子の高校時代からの親友・妙子を演じた)日南響子さんの芝居を見ているのも楽しかったし、園子温監督がいままでに会った誰よりも少年のまま大人になられたような方だったので、演出している監督の言葉を聞くのも楽しくて。

監督は本当に無邪気に撮影現場にいらっしゃいましたし、そういういままでの人生では会ったことのない方々とお仕事をさせていただいたので、それが「楽しい」という言葉になったんだと思います。

――カメラが回っていたるときの園監督は手加減しないし、厳しい方ですけど、カメラポジションを変えている間は、鎌滝さんやほかの女性キャストのところに来て楽しそうに談笑していましたね。

そうなんですよ。しかも、村田のライブシーンの合間には自ら登壇して歌い始めちゃうし、本当に無邪気な方でした(笑)。

監督に怒られた「オマエの内臓に嘘が張りついている」

――撮影現場で印象に残っている監督の言葉は?

「オマエの内臓に嘘が張りついている」って怒られたことがあるんですけど、それは自分の人生を変えてくれた言葉でした。

例えば、いまのこの発言も本当にそう思って言っていることなのか、場の空気を読んで言っていることなのか? とか、目の前にいる人ときちんと話せているのかな? ということを監督にそう言われてから考えるようになったんです。

――無意識にやっていることを気づかせてくれたわけですね。

自分が嘘をついていることに気づいてなかったんだって、今回の撮影中にすごく思ったんです。

何か取り繕ったり、世間がいいとするルールに従うように生きようとしちゃっていたり。それを園子温という、人間のまま生きている監督に見破られたんです。

「オマエはオマエが気づいていない間にたくさんの嘘をついているし、それが内蔵に貼りついちゃってるから、このままだと女優としてダメになるぞ!」って毎日仰ってくれましたからね。

『愛なき森で叫べ』

大変だったのは「通電のシーンと殴られるシーン」ばかり

――そんな園監督の現場で、いちばん大変だったのはどのシーンですか?

いちばん大変だったのは、通電されるシーンです。

――でも、あれはもちろん実際には電気は流れていないですよね。

電気は流れてないですけど、1日の香盤が通電のシーンと殴られるシーンばかりで。

しかも、通電されて泣くシーンだけでも何回も何回もやって、監督から「声が小さい!」「もっともっとエモーショナルに! エモーションが全然足りない!」って言われ続けたんです。

それこそ私は10回近くテイクを重ねたりもしたんですけど、それに椎名さんや満島さん、(父親役の)でんでんさん、(母親役の)真飛聖さんもおつきあいくださったから申しわけなくて。

でも、あれは意識が遠のくぐらい大変だったっていう覚えがあります(笑)。