【インタビュー】“オールメール”で1人2役のシェイクスピア作品に挑戦 松尾貴史×青木豪氏、人の心を動かす演劇の魅力を語る

2016.8.5 17:59配信
1人2役を演じる松尾貴史

 シェイクスピア喜劇の中で一番幸福な物語ともいわれる「お気に召すまま」が、俳優集団D-BOYSと演出・青木豪氏のタッグでDステ19thとして10月から東京・山形・兵庫で上演される。出演者はすべて男性俳優(オールメール)、さらにメインキャストがほぼ1人2役を演じるなど見どころも十分。フレデリック公爵とその兄の前公爵を演じる松尾貴史と青木氏がこのほどインタビューに応じ、物語の魅力や演じることへの期待、果ては演劇の魅力までを語った。

 この作品は、2011年の「ヴェニスの商人」、2013年の「十二夜」に続くDステシェイクスピアシリーズの第3弾にして“オールメール3部作”の完結編(?)となる。物語は登場人物それぞれの事情でやってきたアーデンの森で、権力・男女・恋人といったさまざまな入れ替わりから生まれる人間ドラマと抱腹絶倒の本格コメディーを描く。

──今回の「お気に召すまま」は青木さん風の大幅なアレンジも加えられているのでしょうか。

青木 私は演劇が好きで割とたくさん見るのですが、自分が見ていてまったく分からない言葉が続くと、そこですぐにウトウトしてしまうんです。自分がウトウトしない作品を作ろう、みたいな…(笑)。今までの2作もけっこうカット(台本を修整)してたんです。今回も構成を少し変えて大幅にカットしています。2時間以内に収まればと思って。

松尾 でも言葉の量は膨大ですよね(笑)。

──再構築されている台本を読んだ、役者さんとしての第一印象は?

松尾 どういうニュアンスやテンポ、立体感でやるのかな、というのは最初に読んだだけだとどうとでも想像できちゃうんですよ。それはけっこうなエネルギーを費やしてしまうので、とりあえず何も考えずにぼーっと読ませていただくような感じで…。スケッチブックは真っ白の状態です。2時間あれば相当な世界観が構築できるはずですし、あとはお客さんの想像力を尊敬し、敬意を払ってどう組み立てていくのかというところだと思います。

──松尾さんをキャスティングしようと思ったきっかけや決め手は?

青木 今回は基本的にほぼ1人2役にしたいというコンセプトがあって、前の公爵と今の公爵(フレデリック公爵)は絶対2役でやってほしかったんです。松尾さんはいろいろな役を瞬時に変えられるから、僕も見ていて楽しめる。傲慢な物言いですけど、演出は観客代表だと思っているので、そういう意味で安心して楽しめる方とぜひやらせていただきたいなと思ったわけです。

松尾 それを同じ人にやらせるって、ものすごく大冒険ですよね(笑)。2年くらい前からオファーをいただいていたのですが、最初は2役とはわからない状態で…。ご期待に添えるようになんとか気張ります。でも1カ所、ものすごく(展開が)早いところでフレデリック公爵に戻るところがあるんですが、早替えみたいな感じになるんですよね? 読んでいてちょっと不安になりました。

青木 これからいろいろ検討して頑張ります(笑)。

──台本を拝見させていただいてお話を聞いていると、演じる方にとっては相当大変なのではないかという印象を受けましたが。

松尾 お客さんが「(出てる人は)たまったもんじゃないだろうな」と思って見てくれたらしめしめって感じじゃないですか。出演者がいじめられている感じと言ったらあれですが、(お客さんに)大変なんだろうなって思われるようなものはやりがいがありますよね。お客さんが盛り上がってくれたらいいなって。あわよくばですが、そんな気持ちもあります。

──D-BOYSからのキャスティングにあたり、女性役などはどういった基準で人選されていったのでしょうか。

青木 D-BOYS内で女優メインな感じのオーディションをやらせてもらいました。男優だと「この人がこれをやると…」というのが描きやすいのですが、「この人が女役をやったらどうなるんだろう」というところは、声を聞いたり動いてもらったり人となりを見ないとなんとも決めがたいところがあって…。背の高い人はやっぱり低い人と組んだ方が楽しいだろなという組み合わせでも見ました。前山剛久(ロザリンド役)くんとか西井幸人(シーリア役)くんは不思議ときれいな方で違和感がなかったのですが、遠藤雄弥(ル・ボーとオードリー役)くんと山田悠介(マーテクストとフィービー役)くんに女役を読んでもらったらものすごくイケてなかった(笑)。読んでもらった瞬間にオードリーとフィービーというブス役が面白いと思いましたね。

──男性が女性を演じ、さらにそのキャラクターが男装するといった不思議な感覚の人々も登場します。こういう形式での芝居は、女優さんと共演する時との違いはあるのでしょうか。

松尾 実はこれまであまりそういう経験がなくて…。これはきっとお客さんがどう思い込んで見てくださるかにかかっていると思います。その手助けとして、周りがその人を女性として扱うことによって(その役が)女性だと思えて、全体で想像しやすくなるとは思います。だからこそきっと男性役の人たちは普段演じているより“男性度”を高めにしなきゃいけないのかなっていう気はします。そういう男女比みたいな割合を周りがどうバランスよくお見せするのかというところがひとつポイントなのかな。

──日常が非日常に変わるところが観客側から見る演劇の魅力の一つかと思います。演じる側、演出する側から見た演劇の一番の魅力はどこでしょうか。

松尾 すごく突き詰めると、心が動くってことしかないのかな? 心が動いた証に、拍手だったり笑い声やすすり泣く音っていうのがあるんだろうと思うんです。(演劇の)劇って劇薬の劇ですから、何かしらの刺激があって毒りんごにも薬にもなる。それが演劇なのかなっていう気がします。

青木 それプラス、生身の人間がそこにいることですよ。(そのとき観客席にいらっしゃる)お客さんによっても変わりますしね。それも魅力かな。

松尾 毎回変わるから何度も見に行くっていうお客さんも多いじゃないですか。その魅力はやっぱりいつ行っても生身の人が毎度いることかな。うちの旦那とは1回キスしたからもうしなくていいって人はいないじゃないですか(笑)。結局、人間がそこにいて触れ合うことで繰り返しも魅力になる。そこで心を動かすストーリーを作ったり、演じたり、運んだり…。いろいろなものを見せてくれるわけですから、そりゃあ(演劇を見るのが)くせになってほしいなと思いますね。

【俳優集団D-BOYS】ワタナベエンターテインメントに所属する男優を中心に構成されるグループ。城田優、遠藤雄弥などを輩出し、瀬戸康史、山田裕貴などもメンバー。

【松尾貴史】1960年5月11日生まれ。兵庫県神戸市出身。大阪大学芸術学部デザイン学科卒業。俳優、ナレーター、コラムニスト、折り紙作家、カレーショップオーナーなど多彩な顔を持つ。近年の舞台出演はAGAPE store「七つの秘密」(G2演出)、「マイ・フェア・レディ」(G2演出)、「マーダー・フォー・トゥー」(SCOTT SCHWARTZ&J.SCOTT LAPP演出)など。

【青木豪】1967年、横須賀生まれ。明治大学文学部文学科演劇専攻卒業。97年に劇団グリングを旗揚げ、2014年の解散まで全ての作品の脚本・演出を手掛ける。13年、文化庁新進芸術家派遣制度により1年間ロンドンへ留学。現在は株式会社キューブ所属。09年に脚本を手がけたHTBスペシャルドラマ「ミエルヒ」で第47回ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、NHK-FMシアター「リバイバル」でABU賞と数多く受賞、その活動は多岐に渡っている。 最近作は舞台「花より男子 The Musical」。

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