監督作『MY HOUSE』が公開になる堤幸彦監督

建築家・坂口恭平が書いた“0円生活“の記事に触発され、堤幸彦監督が撮りあげた新作『MY HOUSE』が26日(土)から公開される。監督の地元・名古屋で全編モノクロの映像で撮影された本作は、監督が長年、温め続けてきた企画だという。堤監督はなぜ、この企画にこだわり続けたのか? 公開前に話を聞いた。

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本作は、都会の片隅で移動可能な組み立て式の家に住み、アルミ缶を拾い集め換金、不要になったモノを生活に取り入れ暮らす鈴本さんと、同居人のスミちゃんを主軸に、エリートコースを歩む中学生・ショータと、人嫌いで潔癖症の主婦・トモコらのドラマを描いていく。

『トリック』や『SPEC』『20世紀少年』など、数々のヒット作をおくり出してきた堤監督は「給料3万円のADから始めて40本近い映画を撮れたことは大変に幸せなこと」とこれまでを振り返るも「自分の本音を封印して、究極のサービス業として映画をやってきました。でも、自分で気になることをキチンとやるべきだと思った」という。本作では、路上生活者の物語が中心に置かれたことで、都市の孤独や消費社会の歪みが描かれる。しかし、それは本作の主題ではない。「今から思えば、自分の名前を隠して撮るべきだったと思いますね。社会に対して何か言ってやるとかそういう不遜なことはないんです」。

では堤監督はなぜ、路上生活者を主人公にした作品にこだわり続けたのか? それを解くキーワードは“不安”だ。「主人公の鈴本さんは、社会ではなく自分が決めたルールを生きているわけだから最大の自由を得られるかわりに、剥き出しの暴力や権力に向き合わざるをえないリスクを負う。これは都市で生きることの不安と向き合った結果だと思う」と分析する堤監督は、つねに自身のキャリアの中で“不安”と向き合い、不安と戦う人々に魅了されてきた。「不安は人生そのものですよね。職業監督として糧を経て、家族や会社を食べさせることはできているけど、まだ作品を残したという満足感はないんです。それが僕のコンプレックスで、不安の核です。早く『これが僕の映画です』といえるものにたどり着きたいというのが正直なところですね」。

そのキャリアの中で “自身の不安”が創作上、大きな役割をはたしてきた堤監督にとって、自由もリスクも受け入れて不安と向き合う路上生活者の姿は、何としても描きたかった題材ではないだろうか。「“確固たる人生”というものに本当にコンプレックスを覚えますね。その人が路上生活者だろうが政治家だろうが、ロックミュージシャンだろうが、確信をもって生きているに対して自分はなす術もないということは作品に動揺として出ていると思う。その意味でこの映画は、注意深く僕の映画を観てくれた人にはそれほどの不思議はない映画だと思いますし、個人的にはこの映画は棺桶に入れてもいいかなぁ、と思いますね(笑)」。

『MY HOUSE』
5月26日(土) 新宿バルト9ほか全国ロードショー