会見の模様

各地の複数の劇場やホールがオペラを共同で新演出上演する「全国共同制作オペラ」(文化庁助成)。2020年2月には白河文化交流館コミネス(福島県白河市・9日)、金沢歌劇座(石川県金沢市・16日)、東京芸術劇場(東京都・22日)の3館がヴェルディ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》を上演する。演出家・出演者らが都内で会見を開いた(11月18日)。

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このプロジェクトの特色のひとつが、演出に、演劇やダンス、映画など、ふだん他ジャンルを中心に活躍する才能を積極的に起用してオペラに新たな可能性を模索していること。これまでにも森山開次や河瀬直美、野田秀樹、笈田ヨシら、世代やジャンルにこだわらず、さまざまな大物たちに演出を委ねてきた。

今回の演出を手がけるのは、ダンス・カンパニー「ニブロール」を主宰する振付家・演出家の矢内原美邦(やないはら・みくに)。オペラ初演出だ。会見冒頭、「わくわくドキドキしている。でも私がやるからには、普通のオペラでなく、未来につながるような新しいオペラを」と、いきなりオペラ界に宣戦布告。とはいえ、もちろん対決姿勢はゼロ。具体的な手法としては、「映像をふんだんに使う。そのスクリーンは美術セットでもあり、そのセット自体も固定せずにどんどん自由に動かす。予算の許す限り大掛かりに(笑)」

その映像を作るのは、ニブロールでもずっと矢内原とコンビを組んでいる映像作家の高橋啓祐だ。ダンサーや役者ら助演(歌わない役)にも大きく重点が置かれ、そこに歌手や合唱団も加わるという。「突っ立って歌わせるつもりはない」と語るが、この日が初顔合わせだった歌手一同からは、「われわれも踊るのか?」という質問が次々に飛んで来るので、それには「答えない」という作戦に出たと会場を笑わせた。でも、「たぶんみなさんがちょっとびっくりするようなことがあると思います」

朝から晩までずっと稽古しているような小劇場の世界で育った矢内原にとっては、最初の打ち合わせで聞いたオペラの稽古時間の少なさは衝撃的だったそう。「でも今日会って、ひとりひとりにとても興味を持った。全員がいい舞台を作りたいと思っているのはまちがいない。そういう舞台にしたい」と抱負を語った。

主役のヴィオレッタには、円熟期を迎えた名ソプラノのエヴァ・メイ(この日の会見は欠席)。華やかな高音の技巧から内面的な重い表現まで、要求される声の演技が幕ごとに異なるこの役には、彼女のように経験を積んだコロラトゥーラ・ソプラノは適役だ。恋人アルフレードに宮里直樹、その父ジェルモンに三浦克次。ベルリン・フィルのヴィオラ奏者出身という異色の経歴の指揮者ヘンリク・シェーファーがタクトをとる。

すでにさまざまなアプローチが尽くされてきた名作オペラに、気鋭の演出家がどんな光を新たなに当てるのか。2月まで首を長くして待とう。チケットは各地の公演ともすでに発売中。

取材・文:宮本明