キャリー・ジョージ・フクナガ監督

どんなに過酷な道が続いても運命に屈することなく、知性と信念で自分の人生を切り開いた女性 “ジェーン・エア”。英国の女流作家シャーロット・ブロンテによってこの世に生み出された、この強く凛々しいヒロインは、出版されてから165年の間に幾度となく映画化・ドラマ化されてきた。そんな不朽の名作に新たに挑むのは、長編デビュー作『闇の列車、光の旅』(2009)で世界から熱い注目を浴びた34歳の気鋭、キャリー・ジョージ・フクナガ監督だ。

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幼い頃にロバート・スティーヴンソン監督、オーソン・ウェルズ出演の『ジェーン・エア』を観てその世界観に魅せられたというフクナガ監督が今回こだわったのは「原作に忠実であること」だった。原作に近いダークな部分やドラマ性、ゴシック・ホラー的な要素をしっかりと描きつつ、フクナガ流の新しい『ジェーン・エア』を作り出している。現代の女性のハートもしっかりとつかむヒロインのジェーンを演じるのは、『アリス・イン・ワンダーランド』『永遠の僕たち』などで知られる若手実力派、ミア・ワシコウスカだ。

「実はジェーン役を誰にするかノーアイデアで、知り合いの監督たちに相談をしたところ、相談した人すべてが挙げてきた名前がミアだった。僕は彼女に会うために、当時撮影していたガス・ヴァン・サント監督の『永遠の僕たち』の現場へ行ったんだ。彼女はちょうど『ジェーン・エア』の小説を読んだばかりで、とても興味を持っていて、映画化の予定がないかエージェントに問合せていたところだったんだよ。僕にとってミアがファースト・チョイスであると同時に、ミアにとってもこの作品はファースト・チョイスだったというわけさ。運命を感じたよ。ほかのキャストも思った通りの人たちがキャスティングできて、本当にラッキーだった」。

物語は、ジェーンの生い立ち、そして魂と魂が惹かれ合うようなロチェスターとの深い愛が紡がれる。経済的に自立する女性、自分から愛を告白する女性だからこそジェーンの生き方は現代を生きる女性の共感を得るのだろう。現代版ジェーンをスクリーンに映し出した監督も「ジェーンのように知的で、自分自身をしっかり持っている女性に僕も惹かれる。ただ、ジェーンはシリアス過ぎるから、付き合うとしたらもう少しユーモアのある女性がいいかな(笑)。あと、僕自身ロマンチストでありたいとも思っていて。たとえば原作者のシャーロットの妹のエミリーは『嵐が丘』の著者で、姉よりも情熱的。だから、もしもこの姉妹のどちらかを選ぶとしたら僕はエミリーだね(笑)」。プライベートな一面をチャーミングに語りつつ、「それでもジェーンの愛、愛した人に対する無条件の愛、そこにとても惹かれるんだ」と、この映画の根底に流れる愛を力強く語った。

『ジェーン・エア』

取材・文・写真/新谷里映