■マニアも満腹の痛快アクション

サンデーGXを購読している方はご存じと思うが、この雑誌は一時期、漫画界を代表するガンアクション作家が3名揃っていた。『ワイルダネス』の伊藤明弘、『ブラック・ラグーン』の広江礼威、そして本作の高橋慶太郎だ。現在は休載と連載終了により3作揃って掲載されていない状態だが、とにもかくにも掲載タイトル数が制限される月刊誌でこれほどガンアクション主体の作品を並べた例は珍しい。

そんな中で連載を続けてきただけあり、『ヨルムンガンド』の戦闘シーンはお世辞抜きに素晴らしい。ただ両者が向き合ってドンパチ撃つなんて手抜きバトルは皆無。気配や足跡から敵の状態を推理するなど序の口、状況にあわせて拳銃からスナイパーライフルまで巧みに使い分け、近接の間合いに入ったら遠慮なくナイフ&格闘技を繰り出す。さらには航空機での息詰まる空中戦、敵のGPSを欺瞞する電子戦などハッタリも十分。主人公サイドで唯一戦闘力をもたないココですら、狙撃手に照準を合わされながら平然と交渉を続けたりする。作者が軍事マニアなのか登場する実在の兵器類&戦術も異様にマニアックで、とにかくあらゆる手段で読者を楽しませようとしているのが伝わってくる。この戦闘シーンのためだけに全巻購入してもいいくらいだ。

■意外に濃いドラマ&ミステリー

ドラマ部分もアクションに負けてはいない。ココの雇う私兵それぞれに過去があり、それぞれの理由からココに従っている。ストーリーが進むにつれて彼らの中には“自分の過去”と決着を付けなければならない者も出てくる。普段はクールだったりふざけていたりする天才武器商人のココだが、こうしたシリアスな展開では年齢相応に弱く、仲間のために苦悩する表情を見せることもある。人生の大半を兵士として過ごし感情の乏しかったヨナも、さまざまな出来事を経験しながら人間として成長していく。強いはずの人間が弱く、寡黙だった少年が積極的に……あくまでアクションを最大のウリとしつつ、これほどキャラクターを掘り下げられる描写力は見事である。

TVアニメ「ヨルムンガンド」公式サイトより  

アクション、ドラマと揃って読者を引きつけながら、最後の締めくくりは作品タイトルにもなっている「ヨルムンガンド」計画というミステリーだ。武器を売って世界を旅しながらココが密かに進めていた“武器商人の自分だから実現できる完全平和”とは何なのか? その全貌を知ったとき、ヨナは、そして他の仲間たちはどう考えるのか? ラストまでとことん飽きさせない展開が待っている。

 アニメで原作ストーリーをどこまで再現するかは不明だが、全11巻を2クールで消化するとすれば無理なくラストまで突っ走れるだろう。これからどんどん発売されるアニメ版のブルーレイで少しずつ楽しむも良し、あちこちの書店で全巻平積みされている原作コミックを一気に読み漁るのも良し……今期アニメ化されている漫画の中では屈指の一作だ。

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。