『東京白菜関K者』緒方明監督

本日から自主映画の祭典、第38回PFFぴあフィルムフェスティバルがスタート。23日(金)までの開催期間中、若手映像作家の登竜門となるコンペティション“PFFアワード2016”をメインに、さまざまなプログラムが組まれている。その中でも本開催の大きな目玉となるのが“8ミリ・マッドネス!!~自主映画パンク時代~”だ。

8ミリ自主映画 その他の作品

この特集は、石井聰亙(岳龍)、山本政志、諏訪敦彦、手塚眞、矢口史靖、塚本晋也、園子温、平野勝之という現在日本映画界の第一線で活躍する監督たちのまさにスタートラインとなった8ミリ自主映画を集めたもの。ベルリン国際映画祭、香港国際映画祭、そしてPFFと世界巡回企画として、いまや伝説と化しためったに目にできない8ミリ映画の傑作が英語字幕付きでDCP上映される。緒方明監督による『東京白菜関K者』もその中の1本だ。

1980年に製作され、1981年のPFFで入選を果たしている本作で、まず、なによりも観る者の心をつかむのが、その設定だ。フランツ・カフカの小説『変身』を下敷きに、本家本元はある朝、主人公が醜い虫になっているが、こちらの主人公は目覚めると、なんと顔だけが白菜に。この世の者とは思えない風貌になってしまったこの男Kが実社会で散々な目に遭うストーリーは、サービス精神旺盛でヤクザに追われたり、ある女性と恋に落ちたり、野菜の高値で身の危険を感じたりと随所に新たな展開が用意され、最後には『私は貝になりたい』的なオチもつけて、とにかく最後まで飽きさせない。あえてジャンルにくくる必要はないが、アクション映画、あるいは不条理ドラマ、逃走劇としても楽しめる魅力がある。

また、見逃せないのがスタッフとキャストだ。まず、キャストから触れると、ミュージシャンの近田春夫やバイプレイヤーとして活躍中の諏訪太郎らが出演。そして、当時、“自主映画の女王”という異名をとっていた室井滋が、主人公のKを苦しめる、なんとも不気味ないで立ちの妖女役で登場。一瞬にしてシーンを支配するその怪演ぶりには目が釘付けになるに違いない。一方、スタッフに目を移すと、撮影は今回の特集で『1/880000の孤独』が上映される石井聰亙(岳龍)監督、スペシャルサンクスではこちらも今回の特集で『聖テロリズム』が上映される山本政志監督の名が。そういう意味で、当時の自主映画界をリードしていた人物たちの力が結集していた1作ともいっていいかもしれない。

なお、上映当日は『シン・ゴジラ』への出演も話題の緒方明監督が登場予定。当時のエピソードがきける貴重な機会になるに違いない。

第38回PFFぴあフィルムフェスティバル
9月10日(土)から23日(金)まで 東京国立近代美術館フィルムセンター(月曜休館)
10月29日(土)から11月4日(金) まで 京都シネマ
11月3日(木・祝)から6日(日) まで 神戸アートビレッジセンター
11月11日(金)から13日(日) まで 愛知芸術文化センター
2017年4月 福岡市総合図書館

文:水上賢治