(画像左から)篠井英介、陰山泰 撮影:山本祐之

篠井英介と陰山泰が、琵琶と雅楽の楽器を使った「琵琶絵巻 朗読楽『天守物語』」を来年2月、東京・府中の森芸術劇場で上演する。過去3度の公演を行なってきたが、そもそもなぜ琵琶? なぜ『天守物語』なのか。40年来の“盟友”である篠井と陰山に話を聞いた。

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陰山が自ら演出も務める本作だが、企画の始まりは琵琶奏者・友吉鶴心(ともよし・かくしん)との出会い。ふたりを引き合わせた友人の葬儀で、陰山が読む弔辞に合わせて友吉が琵琶を演奏するという「めったにない不思議な経験」(陰山)をした。そこで意気投合し、機会があれば一緒に何か出来ないかという話から行き着いたのが、篠井を加えての『天守物語』の朗読劇だった。

琵琶と古来からの楽器を使う雅楽に、100年前に書かれた泉鏡花の戯曲という組み合わせは、一見、堅苦しく格式ばったものにも感じるが、陰山は「クラシックな楽器ですが、実は奏者の感性がすごく出るんです。僕らの感性と交わって“ライヴ”になっている」と語る。

その言葉を受け篠井も「(共演する)雅楽の稲葉明徳さんも非常に多芸多才な方で、笙や篳篥(ひちりき)といった古典楽器から太鼓にパーカッションまでこなされて、音の世界に尋常じゃない広がりがあるんです」と力を込め、この公演を「朗読と音楽のセッション」と表現。「毎回、同じことをしてくれと言ってもできないし、センスと息で合わせながらやっています。非常にジャジーですね。『あぁ、今日はここでベベンっと入れてきたか。じゃあこっちはこうしてやろう!』という感じでこちらも楽しんでます」と笑顔で語る。

『天守物語』は、白鷺城(姫路城)の最上階で“異界”の者たちを統べる富姫と人間の図書之助の恋を描いた物語。陰山は「非常によくできたSF」と本作を評す。「彫師の桃六という男が“馬鹿な奴らども、勝手に戦争してろ!”と言うんですけど、そこに泉鏡花の表現者としての魂を感じます。琵琶や雅楽の音と言葉によって想像をかき立てる、非常に朗読劇に合う作品だなと思います」

篠井は以前富姫を演じた経験から「富姫というのは女形にふさわしい役で、僕らが若い頃は玉三郎さんの専売特許でしたからね。それをやらせていただけるというのは巡り合わせなのかなと、その時は一世一代の覚悟で臨みましたが、またこういう形でやらせてもらえるのが嬉しいし、どれだけやっても飽きることのないお役ですね」と語る。

2人は共に80年代の小劇場ブームを体験した盟友でもある。共演は決して多くないが「あの熱狂の時代、苦楽を共にした同志」と陰山が言えば、篠井も「安心感が違います。感覚を共有しているからこそ、のびのびやらせてもらえる」と全幅の信頼を寄せる。

若き注目株の小川ゲンを加え、3人の朗読と琵琶と雅楽の魅惑的な音色が混じり合い、どのような“和”のSFファンタジーが浮かび上がるのか?

公演は2月24日(月・祝)、東京・府中の森芸術劇場にて上演。

取材・文:黒豆直樹