『ヴァニタス』(内山拓也監督)

第38回PFFぴあフィルムフェスティバルが開催中。今年もさまざまな企画が用意されているが、やはりフィーチャーしたいのは、自主映画のコンペティション部門“PFFアワード”だ。毎年、ここから未来の日本映画界を背負う逸材が出現する。今年はタイトルに空虚、空しさといった意味合いを持つ作品が、多くの人の心をつかむだろう。

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483本の応募作の中から、20作品を選出した今年の“PFFアワード”。内山拓也監督の『ヴァニタス』は、圧倒的な才能の出現を予感させる。

主な舞台は大学。体育館でひとりバスケットボールをしていた新入生の柴原は、伊藤、橘、永井と知り合う。講義室、喫煙所、体育館と、常に行動を共にしていた4人は、友人関係を保ったまま、時を重ねていく。しかし過ごした時間とは裏腹に、学校の外での関わりはなく、互いの事情もよく知らなかった。学生生活も終わりへと近づく頃、空虚な関係の蓄積が、4人をバラバラにしていく。

ガラスで覆われた校舎に、天井の高い体育館。作品は柴原を追うロングショットから幕を開ける。最初に驚くのは、その映像センス。多様されるロングショットに並々ならぬ力を感じる。さらに移動撮影、画角のセンス、ワンシーンワンカットでの構成と、すべての映像に監督の確信が感じられ、どんどんと引き込まれていく。そして次第に物語自体が求心力を発揮し始める。

決して内面を見せない柴原(しかしこれがまたラストに来て効く)、生活が苦しくバイトを続ける伊藤、危険な仕事を続ける橘(先輩役で渋川清彦が出演!)、誰にも言えない悩みに追い詰められていく永井。永井の悩みをここで書くことはできないが、それを匂わすシーンでの、写真とタバコの使い方に唸った。観客にとって、最初はただの大学生だった彼らが、明確な個として映り始める。しかしそれと反し、彼らは互いの事情を知らぬままだ。そして物語はどんどん加速していく。

クライマックス、ある感情が爆発した。イメージを付けることなく観ていただきたいので、どういう反応が出たのかは書かない。ともかく内山監督が語り手としても優秀なのは間違いない。こちらはすっかりやられてしまい、本気でロケ地に行きたい気持ちにまでなってしまった。

ところで、自主映画の監督というと、いくら選ばれた作品が優秀でも、完成されてしまって伸び代のない場合もある。と思いつつ、監督のプロフィールを見てみると…。ほ、本作が初監督作品だそうです!

第38回PFFぴあフィルムフェスティバル
9月10日(土)から23日(金)まで 東京国立近代美術館フィルムセンター(月曜休館)
10月29日(土)から11月4日(金) まで 京都シネマ
11月3日(木・祝)から6日(日) まで 神戸アートビレッジセンター
11月11日(金)から13日(日) まで 愛知芸術文化センター
2017年4月 福岡市総合図書館

文:望月ふみ