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 舞台は、映画が活動写真と呼ばれ、まだサイレント(無声)だった大正時代。周防正行監督が、映画を説明する「活動弁士」に憧れる染谷俊太郎(成田凌)の夢や恋を描いた『カツベン!』が公開された。

 弁士の語りはもちろん、活動写真風のスラップスティック(ドタバタ)コメディーを意識した動きや、サイレント映画の名作を本物そっくりに再現した場面などで、“映画の始まり”を知ることができる。

 また「活動弁士とは何ぞや」という観点から見れば、『ファンシイダンス』(89)の僧侶、『シコふんじゃった。』(91)の学生相撲、『Shall we ダンス?』(96)の社交ダンス、『舞妓はレディ』(14)の舞妓と同じように、周防監督お得意の、知っているようで、実はよく知らないものの実態を描く、ハウツー&ガイド映画の一種と言えなくもない。

 俊太郎の他、彼の幼なじみで後に女優になる梅子(黒島結菜)、弁士(永瀬正敏、高良健吾)、映画館主夫婦(竹中直人、渡辺えり)、映写技師(成河)、楽士(徳井優、田口浩正ほか)、ライバル館主のやくざ(小日向文世)、その娘(井上真央)、その子分(音尾琢真)、活動写真好きの刑事(竹野内豊)など、多彩な人物が登場する。ちなみに竹中は周防作品の常連だが、役名は毎回青木富夫で、今回も同様だった。

 一方、実在の人物としては、「日本映画の父」と呼ばれる監督の牧野省三(山本耕史)、彼とコンビを組んでスターとなった目玉のまっちゃんこと尾上松之助、阪東妻三郎主演の『雄呂血』(25)を監督する二川文太郎(池松壮亮)らが登場し、『金色夜叉』『不如帰』『国定忠治』『椿姫』『十誡』『ノートルダムのせむし男』などの無声映画を本物そっくりに再現するほか、オリジナルの無声映画も挿入される。

 ただ、弁士の語りの部分は、口調やテンポをまねれば再現可能なのだが(成田も永瀬も高良も素晴らしい)、笑いを取るべきドタバタのシーンは、サイレントのスラップスティックコメディーを意識し過ぎた感があり、山田洋次監督の『キネマの天地』(86)で斎藤虎次郎監督の映画を再現した場面と同様の違和感を抱かされた。

 チャールズ・チャップリンやバスター・キートン、ハロルド・ロイドのような神業的な体技のまねができない上に、今の映画とはリズムもテンポも全く違うのだから、変な話、ただのコントのように映ってしまう。スラップスティックコメディーの再現は難しいのだ。とはいえ、ラスト近くに、窮余の一策で作られたフィルムのつきはぎ映画は『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)のラストを思わせ、映画好きの心をくすぐるところもある。

 さて、周防監督へのインタビューで「なぜ今、活動弁士を主人公にした映画を撮ろうと考えたのか」と尋ねたところ、「日本で映画がどう始まったのかを今撮らないと、誰もそれを知らなくなってしまう。活動弁士のことなんて誰も知らないのではまずいと。自らの反省の意味も込めて、ぜひ、活動弁士の存在を多くの人に知ってほしいと思った」との答えが返ってきた。なるほど、これはやはり監督お得意のハウツー&ガイド映画の一種だったのだ。(田中雄二)

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