キャラメルボックス『嵐になるまで待って』 photo:伊東和則 キャラメルボックス『嵐になるまで待って』 photo:伊東和則

演劇集団キャラメルボックスの舞台を、ふだんはなかなか行けない町へお届けする「グリーティングシアター」。その第三弾、『嵐になるまで待って』が9月21日、東京・かめありリリオホールで幕を開けた。

キャラメルボックス『嵐になるまで待って』チケット情報

ヒロイン・ユーリは声優志望。テレビアニメのオーディションに合格し、顔合わせで作曲家の波多野、その姉の雪絵と出会うが、その場に居た俳優・高杉と波多野の間に諍いが起こってしまう。その時、ユーリには波多野の「死んでしまえ!」という〝もうひとつの声〟が聞こえていた。翌日、高杉は行方不明になり、ユーリのもとには波多野から電話がかかってくる。ユーリのペンダントを拾ったので取りに来いという波多野。そのペンダントはユーリの元家庭教師、幸吉にもらったものだった……。

1993年の初演以来5回目の上演となり、演劇集団キャラメルボックスの代表作とも言える本作。大きな特徴がふたつあり、まずはキャラメルボックス作品の中では珍しいサイコサスペンスであるということ。波多野の〝もうひとつの声〟の力に気づいてしまったユーリは、「愛する人を守るため」の熾烈な攻防へと巻き込まれてゆく。

そしてもうひとつは、手話を多用した演出だ。波多野の姉・雪絵は耳が聞こえない“ろう”という設定のため、劇中では手話が多用される。観ているうちに気付かされるのが、例えばメールを使用したり、スマホに文字を入力してコミュニケーションをとる、といったように、私たちはハンディキャップを持つ人はもちろん、他者へ「伝えるため」のツールを身近に持つことができているということ。しかし、そんな時代だからこそ「伝わらない」ことのもどかしさ、そしてきちんと「伝えること」、他者を「信じること」ということの大切さがより迫ってくる。

今回の公演では、前回の2008年版から殆どのキャストを一新。ユーリを演じた原田樹里は少年のような声がはまり、ユーリが声優を目指す理由に説得力が増す。そんなユーリが憧れる幸吉役には若手俳優として活躍目覚ましい一色洋平が客演、ユーリとフレッシュなコンビネーションを見せてゆく。また、波多野はこれまでキャラメルボックスの歴代看板俳優が演じてきた役。そんなプレッシャーの中、鍛治本大樹は抑制のきいた一見“好青年”風の中に、暗い情念と狂気をにじませる新たな波多野像を作り上げた。

一方で、初演からずっと広瀬教授役で出演し続けている西川浩幸の存在が、張り詰めた物語に少しホッとした空気を与えてくれる。往年の劇団ファンにはこれも嬉しいところだろう。

東京公演は9月25日(日)まで上演。その後、栃木、山形、愛知、三重、大阪、兵庫、広島、新潟と全国を回り、11月3日(木)に埼玉で千秋楽を迎える。

取材・文:川口有紀

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