中川敬輔 写真:渡部伸拡大画像表示

5人がギュッと固まったセンターステージで、シンプルなアレンジで披露された『くるみ』と『Sign』。ここまで楽曲を通じて過去と未来を行き来していた中、’03年から’04年と時系列に沿って並べられた名バラードの流れに、当時の状況や想いをじっくりと重ねながら聴いた人も多かったのではないか。

さてこの時『Sign』を聴いて耳に残ったのが、Aメロの構成の面白さだ。イントロから歌に入り曲が淀みなく流れていく中、<僕も今~>のところでフッとリズムが変わる。その後すぐ<育たないで~>と前のリズムに戻るのだが、<二つ重ねて~>でまたリズムが変わる。この部分、普段自然に聴いていたけど、この日のライブ聴くとけっこう不思議な構成だと思った。

これって、「決してひとつになることはできない他人同士が心を通わせることの、難しさとかけがえのなさ」というメッセージを、異なるリズムの入れ替わりで表現しているのかな……などと野暮な想像をしつつ、振り返るとMr.Childrenはいつも、ただのポップスで終わらないアイデアや違和感を楽曲に忍ばせてきた。あまりに巨大な存在になっているため、Mr.Children=ポップスの王道的存在となにかを象徴するような存在に捉えてしまいがちだが、ひと言で「王道」と括るにはあまりに個性的だし、クセもアクもある唯一無二のバンドなのだというシンプルな事実を、この日のライブで改めて思い知らされた。

続けて歌われた『1999年、夏、沖縄』。Mr.Children流フォークソングと言えるこの曲を演奏する前、桜井は「今回のツアーは、イントロが鳴ったら『あっ、この曲知ってる!』とか『あのときあんな人と付き合ってたなー』とか、いい思い出も悪い思い出も、思い出しながら楽しめる選曲にしたつもりです。そんな中、次は『あれっ?』って感じの曲をやろうと思います(笑)」と語った。確かに知名度だけで見れば他の楽曲に劣っていたかもしれない。しかし実際に歌われた『1999年、夏、沖縄』は、’12年に演奏する意味と意義を強く持っていたし、等身大のメッセージを持ったこの曲が、広いドームの中で彼らとの距離をぐんと縮めてくれた。