ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版> 撮影:田中亜紀 ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版> 撮影:田中亜紀

2013年のトニー賞受賞作で、小池徹平、三浦春馬らが好演した日本語版も記憶に新しいミュージカル、『キンキーブーツ』の来日版が10月5日、東急シアターオーブにて開幕した。初日の客席には日本語版で本作の虜になったと思しきファンが多数詰めかけ、オープニングから早くも拍手と歓声が飛び交う盛り上がりぶり。小池や三浦本人も見守るなか、来日キャストが力強く熱いパフォーマンスを繰り広げ、興奮と喝采の渦を作り出した。

ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版> チケット情報

倒産寸前の靴工場を、父親の急死を受けて急きょ継ぐことになったチャーリー・プライス。在庫処理のためにロンドンを訪れた彼は、ひょんなことからドラァグクイーンのローラと出会い、彼女のブーツを見て工場を救う秘策を思いつく。女装男性たちのための個性的で頑丈なブーツを作って、ミラノで行われる展示会に乗り込もうというのだ。チャーリー、ローラ、工場の従業員たちの奮闘と心模様が、つい数か月前に観たばかりの日本語版と全く同じセット、衣裳、振付で、しかし全く異なる肉体と言語によって語られていく。

これは言ってみれば、究極のWキャスト。それぞれの良さに触れることで、作品により深く迫れるのがWキャストの面白さだとしたら、これほど刺激的な試みはないだろう。日本語版チームには初演ならではの「これが俺たちの『キンキーブーツ』だ!」と言わんばかりの熱量があった。一方、同じメンバーでアメリカ各地を公演して回ってきた来日キャストには、既に“キンキーワールド”の住人たる貫録と安定感がある。特に、自身もドラァグクイーンだというJ・ハリソン・ジーが演じるローラは自由闊達で、そのソロは魂の叫びそのものだった。また、作詞と作曲をひとりで手掛けたシンディ・ローパーの楽曲の、歌詞の響きを含めた魅力をそのまま味わえるのも、原語上演の来日版だからこそ。

だがもちろん、日本語版を観ていないからと言って敬遠する理由は何もない。キラキラとまばゆい輝きを放つ楽曲の数々、スタイル抜群のドラァグクイーンたちによる華やかなダンス、そして誰もが自分に置き換えて受け止めることのできる普遍的なテーマは、いつどんな状況で観ても楽しめるもの。ミュージカルというのは、実はシリアスやシニカルも表現できる懐の深い芸術だが、知らぬ間に身にまとっていた鎧を脱ぎ捨てて「明日も頑張ろう!」と素直に思えるこうした作品はやはり、ブロードウェイ・ミュージカルの神髄だ。

ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版>は東京・東急シアターオーブにて10月30日(日)まで上演。その後、大阪・オリックス劇場で11月2日(水) から6日(日)まで上演。チケットは発売中。

取材・文:町田麻子