金栗四三役の中村勘九郎 (C)NHK

 12月15日放送の最終回を持って大団円を迎えた大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。視聴率面での苦戦が伝えられながらも、最終的にはSNSで盛り上がりを見せ、熱狂的なファンを生んだのも事実。筆者もそんな一人だ。そこでここでは、1年にわたって当サイトに連載した出演者インタビューから、「日本人とオリンピックの歴史」を巡る物語を振り返ってみたい。

 まずは、物語をけん引した2人の主人公、田畑政治と金栗四三を演じた阿部サダヲと中村勘九郎を巡る話から。阿部に関する話題で、何といっても印象的だったのは、皆川猿時(松澤一鶴役)が語った台本の暗記に関する話だ。

 「田畑はせりふの量がものすごく多いので、阿部くんに『どうやって覚えるの?』って聞いてみたら、『黙読で覚える』と答えたので、びっくりしました」

 あの“まーちゃん”のマシンガントークを、黙ったまま覚えて、リハーサルで初めて口にするというやり方に、付き合いの長い皆川ですら驚き、「天才」と表現している。改めて俳優・阿部サダヲの底力を見せつけた作品だったと言えるだろう。

 一方、前半の主人公・金栗四三を演じた勘九郎の姿を端的に伝えるのは、兄・実次を演じた中村獅童の次の言葉。

 「クランクインの前から、歌舞伎の公演が終わった後に走るなど、並々ならぬ意気込みで体作りをしていたことは知っていました。(中略)主役の責任をしっかり持って役作りを行い、年代に合わせた四三の変化を細かく表現していると思います」

 さらに、弟の中村七之助(三遊亭圓生役)は、「金栗さんの真っすぐでストイックなところは、まるで兄を見ているようです」と語っている。歌舞伎の世界で長年、身近に接してきた2人の言葉から、勘九郎の役者魂が伝わってくる。

 本作では、従来の時代劇大河と違い、俳優たちがオリンピック選手を演じたのも大きな見どころだったが、その熱演の裏には並々ならぬ努力があった。金栗と共に日本人初のオリンピック選手となった三島弥彦を演じた生田斗真は、前半のクライマックスとなったストックホルムロケについて、こう語っている。

 「トラックの土を踏みしめたときは、『このときのために一生懸命頑張ってきたんだ』という思いが心から湧いてきました」

 オリンピック400メートル走の場面(第11回)は、実際に400メートルを走り、その後の芝居も一連で撮るというリアルな息遣いを捉えた撮影。本人も「それだけの苦労をして余りあるいいシーンになったと思います」と語っている通り、長期間、トレーニングを積んできた生田自身の思いも重なり、心打たれる名シーンとなった。

 また、女子スポーツの発展も、本作の重要なテーマの一つだった。初の女性オリンピック選手・人見絹枝の活躍を描いた第26回「明日なき暴走」は、「神回」と評判を呼んだ。人見を演じた菅原小春は演技初挑戦だったが、本人の写真を見て「ただ走るのが早いだけの人とは違う、魂を燃やして生きてきた人ならではのすごみが伝わってきた」と刺激を受けたことを語っている。

 その上で、「残っている人見さんの映像を見て、そこから自分が得たインスピレーションで演じたいと思いました」という本業のダンスで培った身体能力を生かした魂の演技は、多くの視聴者の心を動かした。

 そして、全く泳げなかったところから水泳のトレーニングを積み、1932年のロサンゼルスオリンピック金メダリスト・鶴田義行を見事に演じ切ったのが、大東駿介。「用意された分だけでなく、その3倍ぐらいは練習しました」という努力に裏打ちされた熱演は、ドラマを超え、1人の人間として胸打たれるものがあった。

 このほか、女子スポーツの先駆者となったシマ役の杉咲花、金栗の教え子の女学生・村田富江をはつらつと演じた黒島結菜、日本初の女性金メダリストとなった水泳の前畑秀子を演じた上白石萌歌、戦争に翻弄(ほんろう)された小松勝役の仲野太賀など、体を張ってアスリートに扮(ふん)した俳優たちの熱演は、物語の魅力を一段階も二段階も高めていたと言えるだろう。(井上健一)

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