ひどい虫歯で神経を抜くことになり、歯が変色…そんな経験を持つ人も多いのでは。

しかし、今の子どもたちは、「抜けてしまう乳歯」を使う事で、将来虫歯になってもそんな経験をせず、健康な歯を保ち続けられるかもしれません。

それどころか、もっと大きな病気の治療においても、乳歯が役に立つ可能性があるというのです。いったい、どういうことなのでしょうか?

子どもの乳歯の細胞を保管する、「歯髄(しずい)細胞バンク」って?

ケガや病気で損なわれた組織や臓器を、主に本人の細胞を使って再生させる医療技術を再生医療といいますが、新しい再生医療の一つとして、歯髄細胞を使った治療法が注目されはじめています。

歯髄細胞とは、歯の神経のところにある細胞のこと。歯髄細胞の中には、組織や臓器を修復・再生する力を持つ幹(かん)細胞が、多数含まれています。

そんななか、再生医療の研究・治療のために、抜けた歯を寄付者から集めて歯髄細胞を保管するほかに、有料の保管サービスを提供する会社が出てきています。

抜歯や歯が抜けるタイミングで、細胞バンクに歯髄細胞を預けておくと、将来、本人や家族が虫歯や歯周病、脳梗塞、アルツハイマー病などになったときに再生医療による治療に使える可能性があるのです。
特に、若い細胞が採取できる子どもの乳歯は、保管に最適なのだそう。

保管にかかる費用は、最初の10年で30万円(税抜)、その後10年間更新するごとに12万円(税抜)と、決して安いとは言えません。細胞を再生医療に使うと聞いても、今ひとつ具体的なイメージがわかないのも事実。
でも、長い目線で考えてみると、その価値が十分見いだせるかもしれません。

どうせ抜けてしまう乳歯が、将来わが子を病気から救う可能性があるなんて、多くのママにとって興味を引かれる話。

そこで、国内初の「歯髄(しずい)細胞バンク」を運営する株式会社セルテクノロジー代表の大友宏一さんに、詳しいお話を伺ってみました。

「歯髄細胞」を使った治療はいつからできるの?

――一般の人が歯髄細胞を使った再生医療を受けられるようになるのは、何年後くらいなのでしょうか。

大友宏一さん(以下、大友):断定はできませんが、早くて3~5年後には、一部の医療機関で可能になっているはずです。

京大の山中教授がiPS細胞の作製に成功し、ノーベル賞を受賞した影響で、日本では今、再生医療の研究と実用化が急速に進んでいるんです。

歯髄細胞を使った再生医療では、すでに4例の成功例も出ています。

今、5~6歳のお子さんの乳歯の細胞を保管した場合、その子が大人になる20年後には、歯髄細胞を使った治療が可能な医療機関が増え、一般の人にも再生医療が身近になっていると予想しています。

年をとっても入れ歯いらずになれる!?

――歯髄細胞を保管しておくと、将来、どんなケースで役立つ可能性があるのですか?

大友:もっとも誰にでも起こりうる身近な例で、実用化も近いといわれているのが、歯髄細胞を使った虫歯の治療です。