リハーサルより photo:Kiyonori Hasegawa リハーサルより photo:Kiyonori Hasegawa

ウィーン国立歌劇場2016年日本公演最初の演目《ナクソス島のアリアドネ》(リヒャルト・シュトラウス)の初日を翌日に控えた10月24日。出演者らが顔を揃えた開幕会見が、公演会場の東京文化会館で行なわれた。

ウィーン国立歌劇場 来日公演 チケット情報

ドミニク・マイヤー劇場総裁が「現在あるオペラの中で最も美しいオペラ」と語る《ナクソス島のアリアドネ》だが、歌手には高度な実力が要求される作品だ。既報のように、出演予定だったヨハン・ボータ急逝(9月8日)の悲報を受け、急遽バッカス役に起用されたのはステファン・グールド。つい先日まで新国立劇場の《ワルキューレ》でジークムントを歌っていた彼は、その後10月22日に台湾でマーラーの《大地の歌》を歌ったあとにトンボ返り。23日早朝に羽田に到着したその足で総稽古に直行した。

バッカス役は「十分に歌えるテノールは世界に数人だけ」(指揮者マレク・ヤノフスキ)という難役だが、心配は無用。2012年にウィーンで新制作された今回のプロダクションの初演キャストがグールドだったのだ。「悲しい理由で戻ってきた。偉大な友人に代わりはいない」と弔意を表したうえで、「オリジナルは自分。よく知っているプロダクションなのでいつものように歌いたい」と自信を語った。

会見には他の主要キャストも出席。音域の広い題名役アリアドネを歌うグン=ブリット・バークミン。難易度の高いコロラトゥーラの技法とカンタービレが要求されるツェルビネッタ役のダニエラ・ファリー。ズボン役の作曲家は、初来日のステファニー・ハウツィール。ヤノフスキはリハーサルに大いに手応えを感じたようで、「みんな、明日の初日まで病気にならないでほしい」と会場を笑わせた。

そのヤノフスキといえば、「演出ありきの傾向に嫌気がさした」と1990年代以降はオペラ劇場と決別し、今年のバイロイト音楽祭で実に久しぶりにピットに復帰した、一家言の持ち主。しかし登場人物の心理描写を大切にする今回のベヒトルフ演出は、「舞台で起こっていることに指揮者が責任を持てる」と、彼の厳しいお眼鏡にも適っている様子。盤石の歌手陣も得て、音楽を尊重した充実の上演が繰り広げられるはずだ。

《ナクソス島のアリアドネ》は10月25(火)・28日(金)・30日(日)の3公演。日本公演はそのあと11月6(日)・9日(水)・12日(土)《ワルキューレ》(東京文化会館 大ホール)、10日(木)・13日(日)・15日(火)《フィガロの結婚》(神奈川県民ホール 大ホール)と続く。

取材・文:宮本 明