絵本は自分で読めたほうが絶対に楽しい

――意志の疎通がまだ難しいような乳児期には、どういった家庭学習を施されていましたか?

廣津留:基本は、体を動かす、自然を見せる、日本語と英語とフランス語の3ヶ国語で話しかける、本を読んで聞かせる、などです。

とはいえ、あくまでも、本は自分で読むもの、が持論ですので、そこまで読み聞かせにこだわっていたわけではありません。

私が熱心にしていたのは、読み聞かせというよりは、本人が自分で読む環境作りなんです。絵本は自分で読むほうが絶対に面白いんですよ。

私はよく、娘が本を読むのを聞いていました。ハーバード生にアンケートをしたところ、幼少の頃「今日は私、明日は親、と交代で読んでいた」「親に読んであげていた」との回答がかなりありましたので、2~3歳でも自分で読めれば楽しいですね。

読み聞かせをする場合は、親がその本を暗記するくらい読み込んでいると、伝わり方が全く違います。量より質、です。

何事も子どもが飽きる1分前にやめるのがいいです。

――文字の読み方を教えたのは、しゃべることができるようになってから、くらいでしょうか?

廣津留:そうですね。読みを導入するタイミングは、しゃべれるようになってからがいいと思います。

絵本はひらがなで書かれていることが多いですが、ひらがなだけで書かれた文章は読みにくくて、意味を把握するのに時間がかかりますよね。

漢字はそれぞれが意味をもつので一瞬で意味がわかります。なので、この特性を利用して、漢字をどんどん覚えていけば、読める本が増えます。

漢字は作りが複雑で一見難しいのですが、逆に覚えるのは簡単です。漢字それぞれに特徴がありすぎて目立つからです。書くのと読むのは別ですから、筆圧の弱い幼児は読むのを優先します。漢字=書き取り、の発想を捨てることで、語彙が増えます。

ひらがなはあえて教えなくとも、本を読めば必ず出てきますから、すぐに慣れます。書こうとするから時間がかかるんですよ。

――ちなみに本人が自分からやりたがるような遊び、たとえば積み木、パズル、おままごとなど……もあったと思いますが、そういう時間も1日のどこかに入っていたんでしょうか?

廣津留:積み木、パズルは本人がやりたがる、というのは大人の先入観なんですよ。大人がそういうおもちゃを準備するから子どもが手を出すんですね。

家庭学習というのは、そのような先入観を一切排除して、この世界を子どもに見せて、判断の一部を子どもに任せることです。なんでも教材になりますし、なんでも遊びとも言えますね。

習い事は「習い事の域を超える」真剣さで

――勉強だけでなく、幼少期から習い事をたくさんさせる親御さんも多いですよね。廣津留さんは、習い事は遊び感覚ではなく真剣に、とおっしゃっていますが、子どもの習い事においての親の取り組み方はありますか。

廣津留:語学・音楽・スポーツなど、早くから結果が出せる習い事においては、難易度の高いことから始めないのは、何もやらないのと同じです。子どもの可能性を100%信じて、決して怒ったり、はずかしめたりせずに、リラックスしてやってみることをお勧めします。

そもそも先生がどんなに良くても、家で予習、復習、練習をしなければ伸びません。親は「練習したの?」「まだ?」などの声かけではなく、黙って環境を整えるのがいいと思います。

例えばピアノなら、親が素敵なピアノ曲を選択して子どもと聴いて楽しむ、今習っている曲をイメージしたストーリーを作る、そのほうがよほどやる気がおきます。

良い先生は、子ども扱いせず、どんどん進む先生です。子どもの可能性を100%信じている先生だからこそできることです。

――習い事を選ぶ際のポイントは何かあるでしょうか。

廣津留:習い事の最も大きな勘違いは、スポーツであれ楽器あれ何であれ、親が「その分野が世界的に見てもとてもすごいものだ」と思い込んでしまうこと。普通の人は、バレエや楽器のコンクールの名称や活躍する人物など知りません。スポーツの大会もオリンピックの時以外は盛り上がりません。

自分のやっている分野はとかく「注目されている」と錯覚を起こしがち。

世間の評価にこだわりなく、親が好きなもの、親の直感で我が子に合っていると思えるもの、真剣に打ち込めば結果が出るもの、その辺りを基準にしてはいかがでしょうか。

――本の中の娘さんとの対談で、娘さんがバイオリンを「やめたい」と言ってもなんとかやめないようにもっていっただろう、とありますが、子供の習い事を続けさせるにはやはりそういった親の姿勢も必要でしょうか。

廣津留:習い事を続けるコツは、子ども自身がその習い事を大好きになることです。それには親の見えないサポート力が必要ですが、あくまでも「見えない=家庭全体の総意であって、押し付けではない」ことが大事です。

そして、習い事の域を超えることがポイント。やめさせるべき時は、例えば、バイオリンのような自分で音程を取る楽器でいつまでたっても音程が取れないなら、音程を取る必要のないピアノに変更するなど、親の配慮がいると思います。

――娘さんを「未来から来た人」と捉えて、叱ることもなかったということですが、多くのママはついカッとなって怒ってしまったり、子供の行動にイライラしてしまうことも多いと思います。余裕を持って子供と接することができるコツを教えてください。

廣津留:子どもは、親が地球からいなくなった後も、未来の責任を背中に乗せて生きていきます。未来を担う子どもの小さな背中を見て感謝することはあっても、勉強や生活態度程度のことで腹を立てることはありません。ですから、私は一度も子どもに怒ったことがありません。

でも、叱る、怒るの反対は褒める、でもないですよね。いつも親が平常心で大局から子どもを見つめることが大切だと思います。

廣津留さんの著書『世界に通用する一流の育て方 地方公立校から<塾なしで>ハーバードに現役合格』には、常識はずれとも言えるような独自の家庭学習のコツがこの他にも詳しく紹介されています。

習い事を色々させているから平気、いい幼稚園(学校)に入れたから大丈夫、と人任せにするのではなく、子どもと一緒のわずかな時間でもオリジナルの家庭学習を楽しむことで、共に学び成長し、子どもの心により深く寄り添えるようになるかもしれません。

子どもの自ら学ぶ力を育てるために、ぜひ参考にしてみてほしい一冊です。

 

エディター&ライター。エンタメ誌などの編集を経て、出産を期にライターに。ミーハー精神は衰えないものの、育児に追われて大好きなテレビドラマのチェックもままならず、寝かしつけたあとにちょこちょこと読むLINE漫画で心を満たす日々。