『温室』稽古場より(撮影:本房哲治) 『温室』稽古場より(撮影:本房哲治)

新国立劇場の「JAPAN MEETS…-現代劇の系譜をひもとく-」第6弾として上演される『温室』。20世紀を代表するイギリスの劇作家ハロルド・ピンターの脚本を深津篤史が演出する。6月26日(火)の開幕に向けて準備を進めている稽古場を某日訪れた。稽古場では、まず最初に目に入ったセットの存在感に圧倒される。赤と黒のコントラストが美しくも不穏な空気を放つ。

『温室』チケット情報

描かれるのは病院らしき収容施設でのクリスマスの1日。番号で呼ばれる患者たちについて話す、施設の職員たち。段田安則演じる最高責任者・ルートは権威を傘にきた横柄な男。あまり感情を 見せないが、その裏で何かを企んでいるかのようなギブズ(高橋一生)。そのふたりに取り入るカッツ(小島聖)……。施設という閉ざされた空間の中で、いくつもの思惑が折り重なっていく。

約1か月に渡る長い稽古期間もいよいよ大詰め。毎日通し稽古を繰り返しているが、その前に必ず、ゲーム的な要素の入った稽古を行っている。この日も演出の深津が登場するなり、「ニュアンスを外していきましょう」と発言。それに従い、高橋と小島が向かい合い膝をつけるようにして座り手をつなぐと、まったく感情を入れず、棒読みでセリフを交わす。その後は高橋、段田、山中祟の3人のシーンを、シリアスなセリフでも笑みを絶やさずに言うゲーム。橋本淳が審判役となり、少しでも笑顔が消えると指を差して指摘、最後に誰が一番よかったかを判定。橋本が高橋を選ぶのを見て段田が「難しいんだよー!」と嘆く姿に稽古場が笑いに包まれ、空気が和らぐ。

通し稽古に入ると、先ほどの棒読みや、笑いながら交わし合ったシーンが見違えるように緊迫感を持って迫ってくる。高橋の冷笑から発せられる不気味さ、翻弄される段田の哀愁……。負荷をかけることでセリフの新鮮さを再発見させようとする深津の目論見の効果は、一目瞭然だ。深津流の趣向はもうひとつある。本番さながらの通し稽古でも、役者がそれぞれ自分で決めた1、2個の単語を発声しないというもの。たとえば高橋ならば「起こる」「殺す」という単語。そのために、ある患者が殺されたことを報告するシーンで、度々セリフに一瞬の空白が入る。本番でその単語が乗ることで、それらのセリフがどう輝きを変えるかが見ものだ。

全体を通した大きな演出上の仕掛けが、この作品の不穏な空気、そして登場人物たちの存在の危うさをいっそう際立たせる。公演は6月26日(火)から7月16日(月・祝)まで、新国立劇場・小劇場にて上演。チケットは発売中。

取材・文:釣木文恵