新国立劇場オペラ『ラ・ボエーム』 撮影:寺司正彦  提供:新国立劇場 新国立劇場オペラ『ラ・ボエーム』 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

新国立劇場の2016/17シーズンのオペラ第2弾『ラ・ボエーム』(プッチーニ)が11月17日に初日を迎えた。2003年の新制作以来、これが5度目の上演となる粟國淳演出のプロダクションは、奇をてらわない、音楽に寄り添った正攻法のアプローチながら、第2幕の斬新でダイナミックな転換など、観客の視線を楽しませる要素も盛りだくさん。決定版の呼び声も高い定評の舞台だ。数あるオペラのなかでもトップクラスの人気を誇る作品の高水準の上演。やっぱりオペラはこれだ。

新国立劇場オペラ『ラ・ボエーム』チケット情報

悲劇のヒロイン、ミミを歌っているのはルーマニア出身の美しいソプラノ、アウレリア・フローリアン。これが初来日でミミも初役とのことだが、『椿姫』のヴィオレッタが当り役というだけあって、押し引き自在な高域のコントロールは見事だし、感情表現の振幅も大きい。ミミの薄幸を、どこか透明な存在感の声で演じてみせた。

恋人ロドルフォも初顔のジャンルーカ・テッラノーヴァ。第1幕のアリア〈冷たい手〉では名刺代わりに高音もたっぷり聴かせてくれたが、そのスピントのカッコいい二枚目声もさることながら、ほとばしる感情のままに言葉を繰り出すような第3幕の説得力も圧巻だった。

ふたりとも、ヨーロッパで大きく知られ始めてからまだ5年ほどという新鋭だ。高まる評価の理由が納得できるとともに、これからさらに大きな名前になることを予感させる充実の出来栄え。初お目見えをぜひ聴いておいたほうがいい。

イタリアのオペラ指揮者パオロ・アリヴァベーニ率いるオーケストラも好演。ミミがこときれる最後、一瞬の総休止のあとの悲劇的な総奏で幕が下りると客席からすすり泣きも。『ラ・ボエーム』のいつもの光景だが、実際、結末がわかっているのに何度観てもじわっと来るのは、ストーリーはもちろんだけれど、きっと音楽の力だ。名作!

劇場のエントランスにはツリーやリースも飾られていて、クリスマスの雰囲気も盛り上がる。ミュージカル『RENT』の下敷きにもなった永遠のラヴ・ストーリーはクリスマス・イヴから始まるお話。かねてから、ぜひ毎年12月に上演してくれればいいのにと切望していたのだけれど、やっとクリスマスに近い季節に観ることができた。オペラ通はもちろん、初めてオペラを観るという方にもぜひおすすめしたい作品。音楽史上屈指の極上の音楽とともに、ひと足早いロマンティックなクリスマスを!

新国立劇場の『ラ・ボエーム』は11月30日(水)まで。

取材・文:宮本 明