最終リハーサルより (C)Matthias Creutziger 写真提供:サントリーホール 最終リハーサルより (C)Matthias Creutziger 写真提供:サントリーホール

開館30周年の記念公演が目白押しのサントリーホール。その掉尾を飾る大型企画「ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN」がいよいよ始まる。1967年、大指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンが自らの音楽的理想を実現すべく私財を投じて起ち上げた音楽祭だ。開幕前日の11月17日、音楽監督クリスティアン・ティーレマンらが出席して記者会見が行なわれた。

「ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN」チケット情報

音楽祭の中心を担うのはティーレマンと音楽祭のレジデント・オーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデン。サントリーホールの名物企画だった「ホール・オペラ」が復活するワーグナー『ラインの黄金』では、普段の彼らと違って舞台の上でオペラを弾く。劇場ではオーケストラ・ピットで演奏するのが常の彼らにとっては特別な形の上演だ。ティーレマンは言う。

「歌手の声と音量のバランスをとりながら、美しい響きを作るチャレンジを楽しみたい。録音に近い、クリアな響きになるのではないか。最良の形をお聴かせできると確信している。このオーケストラが伝統的な響きを維持しているのは現代では貴重。丸みのある、暗くて、同時に明るい音。攻撃的に前に出すぎることがない音は、オペラでは特に重要だ」

オーケストラ・コンサート2公演では、ベートーヴェンのピアノ協奏曲のソリストに予定されていたイェフィム・ブロンフマンが病気降板のため、キット・アームストロングが代演する。ティーレマンが「第二のブレンデルと呼べる才能」と認める新鋭ピアニストだ。

プログラム全体に特別な彩りを添えるのが、創始者カラヤンの長女で女優のイザベル・カラヤンが出演する一人芝居『ショスタコーヴィチを見舞う死の乙女』だ。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番を中心に、音楽と、彼の同時代人たちのテキストを組み合わせた舞台作品(字幕付き)。生前のカラヤンはイザベルに、「もし自分が作曲できるとしたら、ショスタコーヴィチのように作曲したいんだ」と話していたそう。彼女は「こうして『イースター音楽祭』と書いたIDカードを下げてここにいるだけでうれしい。日本が大好きだった父もきっと誇りに思ったはず。父がホールのどこかにいるのを感じながら舞台に上がります」と感慨深げだった。

互いに「相性ぴったり」と認め合うオケと指揮者の類いまれな呼吸が、カラヤンと故郷ザルツブルク、カラヤンと日本、父と娘、30周年と50周年。さまざまな思いと交差する。

取材・文:宮本 明