黒木華  撮影:源 賀津己 黒木華  撮影:源 賀津己

2010年、野田秀樹 作・演出・出演の舞台『表に出ろいっ!』のオーディションで見出され、故中村勘三郎との三人芝居で世に出て以来、舞台と映像の両方で大活躍中の黒木華の最新舞台が決定した。倉持裕が江戸川乱歩の短編8作から、新たに戯曲を編み上げる『お勢登場』がそれだ。

舞台『お勢登場』チケット情報

読書好きを公言する黒木の乱歩体験は中学生の頃。「明智小五郎が活躍する“少年探偵団”シリーズなど子ども向けの作品を飛ばし、いきなり『人間椅子』や『芋虫』などを読んでしまったんです。恐ろしくて、でもどこか色っぽい妖しげな乱歩の世界にいきなり触れるという、強烈な出会い方をしてしまいました。『お勢登場』を読んだのは今回のお話をいただいてから。彼女は乱歩の短編一作にしか登場しない女ですが、倉持さんは『押絵と旅する男』を軸に、8つの物語をお勢が旅するように巧みに紡がれているんです。読み進むうちに、本当にお勢が全ての事柄に関わっているような気がしてきてゾクゾクしました。“倉持マジック”ですよね」。

今回が初手合わせとなる倉持の作品では、劇作・演出を手掛けた『窓』(2010年)を観ており、「登場人物同士の関係性がとても緻密で、笑って話していたはずのふたりから不意に、思いも寄らぬ暗い感情がこぼれて来るような瞬間が描かれている。観ているうちにどんどん前のめりに引き込まれて、観劇後は“いつかご一緒できたら”と思っていました」と言う。

続けて「今日伺ったのですが、乱歩はもともと、お勢を明智探偵のライバルにしようと思っていたそうなんです。確かに彼女は頭が良く、具体的な描写はありませんが、きっと姿も美しいのでしょう。どことなく振る舞いに品もあり、そのうえミステリアス。何より、私たち普通の人間には想像できないような価値観を持ち、社会的には悪、犯罪と呼ばれるような行為を冷静に、しっかりと計算しながら遂行していくところが、乱歩作品の登場人物ならではの魅力を放っているんですよね」と語る彼女の瞳までがどこか妖しい光を放ち、既に劇世界に入り込んでいるかに見える。

「戯曲に『私、退屈なの』というセリフがあって、それが私は大好きなんです。そんな風に世の中も自分もどこか遠くから見ているようなお勢の視点は、演じる私にとってもとても興味深いもの。早く実際に演じてみたくてたまりません。と、言えば言うほど、自分で自分のハードルを上げることになってしまいますが」と笑うが、既に準備は万端の様子。乱歩と倉持、ふたりの作家が惚れ込むヒロインに、新たな息吹が吹き込まれるに違いない。

『お勢登場』は2017年2月10日(金)から26日(日)まで東京・シアタートラムで上演。他に福岡、大阪でも公演あり。なおチケットぴあでは東京公演の先行販売を11月29日(火) 午前11時よりインターネットで発売する。

取材・文:尾上そら

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