「○○は俺のヨメ」なる言葉を見かけることがあります。
“○○”に入るのは、アニメや漫画のキャラクターだったり、アイドルタレントだったりするのですが、その言葉が妄想や願望の産物であるのは、言うまでもありません。ですが、今回紹介する漫画『孔明のヨメ。』(杜康潤)は、三国志の英雄の一人、諸葛亮孔明の夫人である黄月英を主人公とした作品。いきなり可愛い女の子を嫁に貰ってくれと頼まれるのですから、妄想や願望にすがって生きる人にとっては、なんとも羨ましいことに違いありません。

少々、横道にそれますが、日本における三国志の関わりを紹介しておきます。
まず歴史書である陳寿の記した「三国志」は、平安時代の様々な記録にきちんとした形で登場することから、飛鳥時代や奈良時代にいろいろな形で伝わったものとされています。
これが広く一般にも伝わったのは江戸時代、羅貫中が記したとされる「三国志演義」や、民間に伝承されていたものを集めた「三国志平話」などの通俗小説も日本に伝わり、読み物や歌舞伎や浄瑠璃などに取り入れられ一般庶民にも広まっていきます。

三国志を題材にした川柳を紹介します。
「いなびかりまでは玄徳箸を持ち」
こちらは曹操に野望を指摘された(劉備)玄徳が、動揺から箸を落としたのを、「雷に驚いたからですよ」とごまかしたところ。英雄2人が虚虚実実の駆け引きを繰り広げる有名な場面です。

「孔明が死んで夜講の入りが落ち」
こちらは講談の描写をしたものです。今でこそ落語や講談は1回完結の形になっていますが、かつては今のテレビドラマのように、何日にも渡って公演されることもありました。庶民に大人気の孔明が五丈原の戦いの最中に命を落とすと、講談の客入りが一気に悪くなる状況を面白おかしく川柳にしたものです。
そうした下地があったからこそ、現代の漫画、小説、ゲームなどで三国志が題材にされるようになったのだと思います。
また野球の甲子園大会から、高校生の出場する競技が「○○甲子園」などと呼ばれるように、いろいろな攻防を書いた小説やノンフィクション作品が「○○三国志」と名付けられることもあります。ただそれだけに三国志をテーマにした作品に『マンネリだなぁ』と感じることも少なくありません。「三国志」や「三国志演義」を基盤に置きつつ、どれだけ独自性を発揮できるかが、それぞれの作品に求められるところでしょう。