二階堂ふみ

奇才・園子温監督が漫画家・古谷実の同名コミックを大胆な解釈で実写化した『ヒミズ』。主人公に共鳴する少女・茶沢景子を演じた若手実力派女優の二階堂ふみが、人生観が激変した本作との出会いを回想するとともに映画女優として生きる彼女の“幸福論”を語った。

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衝動で父を殺した15歳の住田祐一(染谷将太)が、普通の大人になりたい夢を捨てると同時に残りの人生を“オマケ人生”と決め、世間の悪人を殺そうと決意する問題作。『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『恋の罪』で積み上げた園監督人気、舞台設定を3.11後の日本に置き換えて現実感を追求した野心的試みなどが支持され、国内外で激賞を集めた。住田を想い、行動を一つにする茶沢を演じた二階堂は、「川に飛び込み、転がって(笑)。茶沢として感じた傷みみたいな感覚が残っていますが、撮影当時のことはよく覚えていないですね(笑)」と撮影から約1年、全身全霊で演じ切った当時を回想。「今はすべてが楽しかったと答えられるけれど、大きくズン! と自分が変われた作品です」と成長を実感していた。

『ヒミズ』は本人だけでなく、周囲の反応も変えた。特に昨年のヴェネチア映画祭で染谷と二階堂が日本人初となる最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)をダブル受賞した快挙は、予想外の影響を残した。「急にブワーと来られて、何なんだよ、大人、って。うつみたいな気持ちになりました(笑)」と世間の狂騒に困惑しながらも、「でも初めての賞が純粋にうれしくて、世界に行きたいと漠然と思っていたことも分かりやすく目に見えたので、一気に開けた感じがしました」と目を輝かす。ただ、受賞の栄誉は、「あくまでも通過点」と冷静な姿勢もキープしている二階堂。「賞を獲ったことで明確に自分の行きたい場所がわかったけれど、引きずりたくはないですね」と視線は前を向いているのだ。

女優としての経験値も彼女を取り巻く環境も劇的に変化したが、女優としての価値観は不変で、「有名になりたいわけじゃなく、お金がほしいわけでもない。スクリーンの中にいれればそれでいいんです。それで自分の幸福論が成り立つから、どれだけ映画を純粋に愛せるか、今それはすごく感じています」とむしろ自身の原点を見つめ直すきっかけになったようだ。将来が楽しみな17歳。ちなみに前述の行きたい場所について聞いてみると、「それは10年後にいる場所。言葉に出すと簡単になるので、今は言わないでおきます(笑)」。

『ヒミズ』

●コレクターズ・エディション(Blu-ray1枚組)

取材・文・写真:鴇田 崇
ヘアメイク:池上 豪
スタイリスト:望月 恵