V系バンド「1000キャパ」問題

高崎:V系バンド「1000キャパ」問題(※1000人収容のライブハウス以上のキャパシティから中々規模が拡大しない)はよく聞く話ですけど、5年目、あとは1000キャパ 以上で停滞すると、失速してしまうような風潮があると思うんですよね。

藤谷:そこからもう一つ大きな規模にしたい、間口を広げたいと、新しいお客さんを入れようとしてそれまでと方向性を変えたりしても、既存ファンの反発が出ることもありますしね。

吉田:1000キャパ 以上を目指すときの呪縛みたいなのとはちょっと違うかもしれないけど、DEZERTもボーカルの千秋さんが「6月のZepp以降しばらくライブをやらない」と言っていたんです。そこである意味、とにかく走り続けた第一章から次へ向かうための準備期間を迎えたのかも。

藤谷:そういえば、先日「ウレぴあ総研」で行ったアルルカンの暁さんとの対談でも千秋さんは「(イベントに出演するアルルカン・DEZERT・NOCTURNAL BLOODLUSTは)悩める3バンド」と表現していました。勢いだけではいかなくなる「難しい時期」と。やはりそこはステージの上の人たちはシビアに、冷静に見てるのだな、と。

あと付け加えると、受け手にとって「応援しがい」というか、「上に上がっていくバンドを見ていたい」という願望はあると思うんですよ。バンドに限ったことではなく、近年のライブ中心のエンタメ全般にいえることだとは思いますが。

高崎:私は元々、ミーハー体質なのでそういうのわかります。ヴィジュアル系にしろ、アイドルにしろスポーツにしろ、そういうのありますよ〜(笑)。

吉田:僕は逆にlynch.が大きくなっていくときに、遠くに行く気がして嫌だったんです(笑)。

高崎:失礼ながら、それは吉田さんかわいい(笑)。

吉田:lynch.が初めてZeppTokyoにチャレンジした時に、予想外と言ったら失礼ですけど、すごくお客さんが入ってて、「ちょっと遠くなった気がする…」って思って寂しかったんです。それがバンギャルの気持ちだと思ってたんですけど…(笑)。

藤谷:もちろん、両方あるとは思うんです。で、強引にまとめますと、バンドの規模によって見てるファンの精神状態って左右されがちなんですよ。その分水嶺のひとつが1000キャパの会場っていうことなのではないでしょうか。

高崎:Zepp規模になると「武道館を目指そう」みたいな空気がファンの方にも漂い始めるし、逆に「遠い」みたいに離れる場合もあるんですよね。

藤谷:90年代くらいまでは、メジャーデビューすると「離れちゃう、寂しい」みたいなファン心理ってあったじゃないですか。それが今は会場キャパにスライドしているのかなと。

高崎:今はメジャーデビューすると逆にインストアイベントが増えちゃいますからね。下手したら疎遠な友達よりも会えますよ(笑)。

吉田:メジャーからするとリクープラインが違うから仕方ないんですけどね。

「金爆以降」のシーンを読む

藤谷:あとですね、今年は「ゴールデンボンバーのブレイクの余波」がなくなった年なのかな。ニコニコ動画から紅白出演まで彼らがブレイクして以降、いわゆる「金爆新規」でヴィジュアル系シーンに入ってきた人たちって多かったと思うんです。そこからもっとコアな己龍R指定のファンになった若いコも多かった。

これって90年代に大ブレイクしたSHAZNAからヴィジュアル系に触れて、そこからもっとコアなDIR EN GREYやPIERROTへ…ということがあったと記憶しています。「次にもっと過激な”V系らしい”バンドが見たい」となったら、血みどろな楽曲も多い己龍やメンヘラなR指定に行くというのはすごくわかるんですよ。

【己龍の2016年】
3月にシングル『彩』、6月にアルバム『百鬼夜行』、11月にシングル『月下美人』をリリース。2015年に続き2度目の武道館単独公演を開催。2010年代のシーンを代表するバンドとしての位置を固めた1年。

【R指定の2016年】
3月にシングル『八十八箇所巡礼』をリリース。日本全国88箇所を回る怒涛のツアー「日本八十八箇所巡礼」を敢行。ツアーファイナルである幕張メッセイベントホール公演当日は大型台風が直撃した。Vo、マモのTwitterが時々物議を醸し出す。ある意味常に話題の中心だったといえる1年。

吉田:反動というか、裏返しですよね。