一人ひとりの特性に合った教育を受けられる環境作り

では、発達障害と言われる特性を持つ子どもでも、誰もが長谷川さんのように特性をネガティブなものではなく、強みとして活かしていけるのでしょうか?

(株)LITALICOの取り組みのひとつに、ソーシャルスキル&学習教室「LITALICOジュニア(以下ジュニア)」の運営があります。

発達障害があってもなくても、そもそも子どもは一人ひとりみんな違っているもの。それなのに同じ方法、同じペースで学ばせようとするから、その方法が合わない子がはみ出てしまい、「問題児」とされてしまう……「ジュニア」では、「みんな違っている」ことを前提に、それぞれに合った学び方を模索し、自分らしく成長できる手助けをしているそうです。

そしてその活動のなかで、長谷川さんは以下の3つのポイントを挙げています。

1.子どもの特性をより深く「知る」

たとえば、「授業中じっとしていられず、立ち歩いてしまう」子ども。「座りなさい!」と叱っても、「あの子はADHDだから」と諦めても、事態は変わりません。

ですが、こうした問題行動とされる行動ひとつとっても、一人ひとり要因が異なります。視覚情報に敏感で、窓からの景色や教室の掲示物が気になっているのかもしれないし、先生や友達に訴えたいことがあるけれどうまく伝えられず、注目を引くために立ち歩いているのかもしれません。

要因が違えば、解決策も違ってくるので、まずはこの要因を探ることが大事というわけです。

2.個別最適な方法で、子どもの「成功体験」を積み重ねる

そして、「成功体験」。よく「褒めて伸ばす」などと言いますが、褒められたり認められるような経験をたくさんしている子ほど、自信を持って自分らしく生きられるもの。

ですが、発達障害を持つ子どもたちは、自分に合わない教育を強いられた結果、この「成功体験」が乏しいまま自己肯定感が低くなっている子が多いそうです。

たとえば、漢字を記憶して書くのは苦手だけど、エピソードを覚えるのが得意で多くの歴史上の人物やそのエピソードを記憶しているという子がいました。

そこで、「春」という漢字は、分解して「三人の人が日なたぼっこをしているのが春」などと、エピソードとして覚えることを教えたところ、漢字嫌いを克服したそうです。

さらにその子は、他の科目も「エピソードで記憶するスキル」を応用して学力全般があがっていったといいます。

自己肯定感が高まることが、いかに大事かということですよね。

3.子ども自身だけでなく、周囲の環境も変えていく

また、長谷川さんは、「持って生まれた性格や特性は変えられなくとも、環境や習慣は変えられる」といいます。

たとえば視力が悪い人がメガネやコンタクトで視力を矯正して社会的に不自由なく暮らせるように、集中できなかったりコミュニケーションが難しいときにそれを補うツールや環境が当たり前にあれば、その特性は障害ではなくなるというのです。

そこで重要なのが、幼稚園や学校、地域という、子どもの周辺にある環境に対するアプローチをすること。例えば授業中に音がうるさくて集中できない子どもは、一番前の席にしてもらうだけで集中力が増すこともあるなど、教室内での環境や先生の対応を少し変えるだけで子どもの学習状況が好転することはよくあるそうです。

もちろん、子どもにとって一番多く時間を過ごす親、つまり家庭環境が大事なのは言うまでもありません。子どもの特性をよく見て個別の解決策や目標を考えながら、子どもと共に歩んでいくという姿勢が重要です。

長谷川さんは、本書のなかで「発達障害のある子どもたちにとって一番の障害は、その子に合った教育を受けられないこと」としています。

子どもはそれぞれみんな違った個性を持っていることを前提に、教育を受けられる、その子自身が伸びていける環境が整ったら、それが本当に「平等な社会」ということですよね。

『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。』では、発達障害のポジティブなとらえ方、「障害のない社会」のあり方についても、より詳しく書かれています。

子どもが発達障害で悩んでいる方も、そうでない方も……「我が子の個性をよく見て、我が子に合う方法でそれを伸ばしていってやりたい」と願うなら、ぜひ一読してほしいと思います。

エディター&ライター。エンタメ誌などの編集を経て、出産を期にライターに。ミーハー精神は衰えないものの、育児に追われて大好きなテレビドラマのチェックもままならず、寝かしつけたあとにちょこちょこと読むLINE漫画で心を満たす日々。