こうした白鳥の活躍を陰で支えたのが、何人もの魅力的な女性達です。
政財界の大物を何人もパトロンに持つクラブのママ、テレビ局の美人レポーター、大会社の社長の一人娘、女性の国会議員や、議員の女性秘書まで。白鳥を「支えた」と書きましたが、白鳥がそのように仕向けさせたのは言うまでもありません。白鳥は巧みに女性達に接近し、ハンサムなマスクと甘い言葉で誘惑していきます。作者の代表作で莫大な借金を背負わされる『100億の男』、様々な男女の関係を描いた『幸せな時間』や『×一(バツイチ)愛を探して』のようにベッドシーンが描かれているのは、青年誌ならではの読者サービスでしょうね。もちろんどの女性もナイスバディの美人ぞろいでした。タレントの塩谷瞬は、モデルの冨永愛と料理研究家の園山真希絵との二股で問題になりましたが、白鳥はそれ以上の女性を同時に操っています。しかも大会社の社長の一人娘とは結婚まで持ち込んでいるのですから、見事な手腕と言うほか無いでしょう。しかしながらわずかにほころびが生じているのは、亡くなったと思われていた白鳥の母親が生きていて、美人レポーターと関わりを持ったためです。それまで白鳥に心酔していた美人レポーターは、白鳥の不信な点に気付き始め、白鳥を追うジャーナリストと行動を共にするようになります。

雑誌での連載は、選挙後の国会で首班指名が行われ、白鳥が総理大臣に選出されたところです。
「あれ?総理大臣になるには100人では足りないよね」と思った方は正解です。現在の衆議院の定数は480人。100人の支持では、とても総理大臣になれないのですが、安定政権を目指して連立を組むはずだった民自党と友民党から大量の造反者が出て、第三党に過ぎなかった白い翼の代表の白鳥が総理大臣に指名されます。現実にそんなことがあるかと言われれば、よほどのカリスマの持ち主でない限り難しいところでしょう。民自党と友民党の国会議員を直接的、間接的に白鳥は揺さぶることで、200人もの造反を成功させ、300人以上の支持を得て総理大臣に就任します。そして最大の見せ場とも言うべき所信表明演説で、白鳥は用意された原稿を破り捨て、政治家、官僚、そして国民の無責任さを痛烈に批判します。
第35代アメリカ合衆国大統領に就任したジョン・F・ケネディは、就任演説で「国があなたに何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何をできるか」の発言をしました。白鳥も国民の無責任な面を批判し、自らと共に行動することを求めます。

ここまで来ると、白鳥の「日本を戦争に巻き込んでいく」野望の道筋が、うっすらと垣間見えてきます。振り返ってみれば、太平洋戦争に突入した時の日本国民も、自分で選択したように思わされて、見えない勢いに乗せられてしまったところがあるようです。同作品の日本国民は、このまま行けば間違いなく戦争へと引きずり込まれてしまうでしょう。その前に白鳥を追うジャーナリストの調査や告発が間に合うかどうか。ギリギリの駆け引きがなされそうです。

現実の日本においても、内は政治不信と官僚不信に加え、長引く不況と震災復興による財政悪化があり、外は同盟国であるアメリカとの軋轢に、近隣アジア諸国との摩擦と、国難が山ほど積み重なっています。他力本願になりかねませんが、「どこからか誰かが現れて、いろんな問題を一気に解決してくれないかな」と期待したくなってしまいます。果たして白鳥のような強烈なキャラクターは、今の日本に居るのでしょうか。

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。