『ファウスト』(C)Polyfilms

ロシアの巨匠アレクサンドル・ソクーロフ監督の最新作『ファウスト』が日本公開されている。これまで数々の作品で世界の映画ファンを唸らせてきたソクーロフ監督が新作の題材に選んだのは文豪ゲーテの不朽の名作だ。監督にインタビューを行い、新作について語ってもらった。

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『ファウスト』は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテがその生涯をかけて書き上げた長編戯曲。悪魔メフィストに誘惑され、魂を差し出すかわりにこの世のあらゆる享楽を得るという契約を結んだファウスト博士の顛末を描いている。映画化に際し、舞台を19世紀のドイツに設定。ファウスト博士と、“悪魔” と噂される高利貸ミュラーの物語を綴っている。

「ゲーテは文学者であるばかりか自然科学、化学、物理学、地理学などを含めた多彩で巨大な学者でした。ゲーテの作品を知るために私たちの知識は必ず不足するでしょう」と監督が語る通り、ゲーテはその著作が読み継がれている偉人だ。だからこそ、ソクーロフ監督は本作を“原作の移し替え”で映画化することは不可能だと考えたという。「ゲーテは自分の考えを言葉で表現するために非常に長期にわたり多くの時間をかけました。表現を的確にするためにどれほどの時間をかけ努力したでしょうか!それを映像創作にすべて受け取るというのは不可能です。映画制作は、ゲーテの偉業にくらべればまったくの短期間でなされますから」。

そこでソクーロフ監督は「原作の移し替えではなく、その意味、考え方を基礎にした映像化」を行ったという。もちろん、『ファウスト』がもつ普遍性や魅力には最大限の敬意がはらわれている。「善と悪、生と死、愛と憎しみなどを含めたあらゆる問題が『ファウスト』という作品に反映されています。そこに提起された課題は未だに解決されていません。すべてが込められています」。

観客はこの物語がもつ普遍性や壮大な物語に圧倒されるだろう。さらにスクリーンに広がる映像美にも驚嘆するはずだ。「前もって撮影監督ブリュノ・デルボネルとは主に叙事詩のリズムについて話し合いました。しかし映像美に係る上で私が大きな影響を受けたのはエル・グレコをはじめ19世紀の画家たちからです。映像技術には、絵画の水準に追いつけないという欠陥が未だにあります。ですから私が最も心がけたのは“光の絵”を作ることでした。照明と色彩の助けを借りて、生命、生活の雰囲気を伝えることでした」。

文豪の傑作を、巨匠監督が映画化した『ファウスト』に“難解な映画”という印象を受ける人もいるかもしれない。しかし、本作は人間の変わらぬ欲望や悲しみを、映画でしか表現しえない手法で描き出し、これからも多くの映画ファンに愛され続けるであろう作品に仕上がっている。

『ファウスト』
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