特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~」 (C)SPL Lascaux international exhibition 特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~」 (C)SPL Lascaux international exhibition

約2万年前に残された洞窟壁画の中でも、鮮やかな彩色と生き生きとした構図で600頭とも言われる動物が描かれ、「洞窟壁画の最高傑作」と称されるのがラスコーの洞窟壁画だ。いま東京・国立科学博物館で開催中の特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~」は、昨年ブームとなったTBS系火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で、主人公の伯母“百合ちゃん”が大人デートを楽しんだスポット。それもそのはず、本展はフランス政府公認のもと制作された展覧会「LASCAUX INTERNATIONAL EXHIBITION」に、日本独自のコンテンツを加えた特別展なのだ。通常は午後5時までの開館も金曜のみ午後8時までとあって、子どもから大人まで楽しめる貴重な展覧会となっている。

特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が残した洞窟壁画~」チケット情報

東京で2月19日(日)まで開催の後、宮城・東北歴史博物館(3月25日(土)~5月28日(日))、福岡・九州国立博物館(7月11日(火)~9月3日(日))にも巡回する本展。その魅力を、ここで改めておさらいしておこう。

見どころは大きくわけて3つ。ひとつめは、最新テクノロジーにより1ミリ以下の精度で再現された洞窟壁画(一部)だ。2メートル大の「黒い牝牛」や、なぜ描かれたのか謎と言われている鳥の頭を持つ人間とバイソンが描かれた「井戸の場面」など、洞窟の中で見る壁画はさすがの迫力。

ふたつめは、クロマニョン人が残した彫刻や道具の実物資料だ。ラスコー洞窟「ラスコーのランプ」は、同博物館の人類史研究グループ長で本展の監修者・海部陽介氏が「まさか借りられるとは思わなかった」と語った国宝級の一品。「体をなめるバイソン」などの彫刻は毛並みまで繊細に彫られており、その豊かな表現力に驚かされる。

そして3つめは、研究をもとに制作されたクロマニョン人の等身像と、その生活の紹介。かれらが身に付けているのは革で作った服に貝殻のアクセサリーなど、予想以上に洗練されたものばかり。実用器具である投槍器などにも美しい彫刻が施されているのを見ると、かれらが創作活動を楽しんでいたことが容易にうかがえる。

1月5日に、海部氏と本展学術協力者の五十嵐ジャンヌ氏(東京藝芸術大学講師)が日比野克彦氏(東京藝芸術大学教授)を迎えて行ったトークイベントでは、「洞窟が実物大で再現されているので、壁画の作者と同じ距離感で作品に向かうことが出来た。クロマニョン人はあの暗闇で動物のイメージが頭に浮かんだからこそ、壁画を描き始められたのではないか」と、日比野氏がアーティスト側からの目線で発言。

「本来、作家の視点や想いが反映されるのが“絵”というもの。いわゆる技術とは別で、ラスコーの壁画はそれが今も伝わってくるという意味で“上手い”んです」との日比野氏の言葉には、海部氏と五十嵐氏も納得の様子だった。

2万年の時を超えて、今も見る者に訴えかけるラスコー壁画の魅力。その理由の一端が、垣間見える座談会となった。

取材・文 佐藤さくら