●幼児の例

幼児のケースでお話ししましょう。

子どもは自分の心に正直に、言葉を出してしまうことがあります。

よそのお宅にお邪魔して、ご馳走になったとき「ここのお家のご飯はまずい!」とか、「おばちゃんデブだね」とか「どうしておばさんの顔はしわしわなの?」などの失言をしてしまいます。

多くの子は、4歳過ぎたころから相手の気持ちがわかるようになり、相手の立場に立って言葉を選ぶことが出来るようになってきます。

しかし、自閉症児の場合これがなかなかできません。そうなると、対人関係でトラブルを起こす原因になったりします。

また、言葉を話していても、よく分析してみると、相手とのキャッチボールの会話ではなく、自分の好きなことだけ話し続ける“一方通行”の言葉だったりします。

治療法はあるのか

自閉症は、後天的に発生した病気ではありません。ですから治療法は存在しません。お爺さんになってもお婆さんになっても自閉症なのです。

自閉症に対して薬が使われることもありますが、これはあくまでも二次的な障害である自傷、鬱などに対しての対症療法で自閉症をそのものを治す薬ではありません。

ただし、早期発見して早期に療育することで、その行動が改善することは大いにあります。

でも、それは本人の行動を治すと言うよりもむしろ、本人のこだわりやルールを親や保育園、幼稚園の先生が理解し寄り添ってあげることにより、不安感なく生活できるようにすることで、結果、問題行動が起こりにくくなるものととらえてください。

「しつければ何とか改善する」そんな誤った育て方をすることにより、「自分自身はダメな人間である」と低いセルフイメージを持ってしまい、将来、不登校、精神疾患、自傷(リストカットなども含む)、他害(反社会的行動や犯罪)に陥ってしまうリスクもあります。

これは二次的に発生してしまったもので“二次障害”と言います。元々、防ぐことができたものです。

自閉症と診断されたら、子どもを何とかしようとするのではなく、親が子育ての仕方を変えることが何よりも肝心です。

ある自閉症児の行動

道路に座り込んで大声を出す子

次にそんな例をお話しします。ある自閉症児の行動です。

“いつも通って帰る道が工事中で通れない状況になっていました。けれども、子どもはその場に座り込み大声を上げます。困ったママは子どもを叩き、抱えて引きずるように連れて帰りました。そして、家に帰ってからも大声を出したこと、地面に座り込んだ行動を叱りました”

親の立場に立ってみると、ママのとった行動はわからないでもありません。でも、もし子どもが言葉を流暢に話せたら次のように言っていたかもしれません。

「僕はいつもと同じ道を通らないと不安でどうしようもないんだ。
それなのに、どうして大人は僕の気持ちをわからず、勝手に『迂回せよ』と命じるんだ。
僕は、どうしようもなくなって、うずくまった。そして、何とかしてもらいたいと大声をあげた。
それなのに座ったことに対しても、声をあげたことに対しても、叩かれ、帰宅後もまた叱られた。
怖いよう。もう外には行きたくないよう」

自閉症の子は想像力の障害により、一定のパターンに固執します。更に見通しが立たないことに不安を覚えます。だからこうなってしまうのです。