「すごく難しいと思った」ある衝撃的なシーン

――それでは改めて本作の制作面の話をお聞きできればと思います。原作となる小説は伊藤計劃氏の処女作ですが、読まれた時の感想はいかがでしたか?

山本:僕は伊藤さんが亡くなられた後に『ハーモニー』から読んで、それから『虐殺器官』を読みました。『ハーモニー』は女子的な同調圧力に生きづらさを感じる人にピンとくる話で、『虐殺器官』も似たような生きづらい感じに焦点を当てた話だし、予言的な内容だと思っています。僕も比較的生きづらいので、すごく惹かれたっていうところはありますね(笑)

――具体的にどこに面白さ感じましたか?

©Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

山本:そういったテーマ的なことと、“物語の縦軸とガジェットが混ざる仕掛け”ですね。これらをミックスすることは、アニメのオリジナル企画をするときもすごく考えるんですよ。テーマって最後にどこかに感じるくらいでいいと思うので、実際の物語の躍動感と、ガジェットが1個いるといつも思っています。

それは『天空の城ラピュタ』でいうところの「飛行石」みたいなウソですよね。『ハーモニー』だと脳内にある「WatchMe」というシステムで。それがあまりに壮大なSF仕掛けだと、それ自体の説明に時間がかかるんですけど、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の「ゴースト」のようなものだと、ピンときてなんとなく体感しやすいですよね。

『虐殺器官』は、ガジェットとテーマの融合点、それと物語という3つのセットが非常によくできた原作だなと、最初からわかっていました。ただ母親というテーマも入っていて難解さがちょっとあったので、映画化するうえで最初の文芸の話では、そこをちょっと整理しようというところから始まったという感じですね。

――文芸面ですと、『ハーモニー』と『屍者の帝国』では山本さん自ら脚本を書かれていましたよね。

山本:ジェノスタジオの代表という立場にもなりましたし、今回は全然さわってないですね。本作の脚本は監督の村瀬修功さんがほとんど考えられたので、僕らは壁打ちの相手をしていた感じです。

僕としては、「子どもが殺せますか」と聞かれた主人公のクラヴィス・シェパードが実際に少年兵を殺していくシーンがあって、そこを観ている人にピンとくるように作るのがすごく難しいと思ってたんですよ。

――確かに衝撃的なシーンでした。

©Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

山本:子どもを殺すという非日常的なことに対して共感することはないと思いますけど、「戦闘前感情適応調整」をされているクラヴィスたちの心理状況の悲哀を、観ている人にわかるところまで導かなければならないので、文芸的にすごくハードルの高い作業なんですよね。

甲子園に出たいとか、好きな子に想いを伝えたいといった日常的に共感できる感覚からかけ離れているので、どこに気持ちを持っていけばいいのか調整するのが大変な作品だったと思います。でもそこを転機に物語がちょっと変わるので、そこはうまくいっているなと。

――映像的にも村瀬監督の魅力が出ている作品だと思いました。村瀬さんのお仕事はプロデューサーとしての目線から見ていかがでしたか?

山本:村瀬さんはアニメーターとしての評価が高いんですけど、とにかく文芸分析能力が高くて、映画とはどういうものかということをすごくよくわかっていらっしゃる方ですね。アニメーターを封印して監督仕事に集中しても超一流だと思います。