城宏憲 城宏憲

2月の二期会公演『トスカ』(プッチーニ)は、1900年ローマ歌劇場での世界初演時のデザイン画に基づいて忠実に再現された舞台装置と衣装が大きな話題を集めている。その注目公演で、トスカの恋人カヴァラドッシ役を歌う城宏憲。1年前の『イル・トロヴァトーレ』で、急遽の代役でマンリーコを歌って鮮やかな二期会デビューを飾り、一躍期待の若手テノールのトップ集団に躍り出た。

二期会公演『トスカ』チケット情報

「カヴァラドッシは初役ですが、アリアはコンクールなどでも何度も歌っているので自分としては身体になじんでいる、すごく距離の近い役。でも同時に、現代のテノールにとって、とても危険な役でもあります。現代は、より細かい演技が求められる時代。たとえば拷問の苦しみを想像するだけでも筋肉が硬くなりますよね。苦悩の表情の演技に引っ張られて、声も過度にドラマティックになる可能性がある。そうなると喉への負担を軽視できません。昔のように、オーバーなリアクションで気持ちよく歌うという解釈では、現代の『トスカ』は乗り切れないと思います」

繊細さと力強さを併せ持つ、リリコ・スピントの役柄を得意とする。「イタリアのリリコ・スピントというテノールは、スピント寄りのリリコというよりは、両者を兼ね備えていたのではないかと思います。カヴァラドッシはまさに、役柄としても声楽的にも、ドルチェの甘い部分とエネルギッシュでヒロイックな部分が両立しています。そのふたつを、歌い分けるというよりは、行き来できるように演奏したいと思っています。エネルギッシュなだけで歌ってしまうと、優しい部分で声が落ちる。逆に、軽く歌ってしまうと、プッチーニの求めた壮大なオーケストラの波に飲まれてしまいます」

テノールの醍醐味とも言えるハイC(高いドの音)には強いこだわりを持っている。「師匠のアルベルト・クピード先生からはよく、財布にいつもハイCを入れておけと言われていました。財布にシやドが入っているかどうかで、受けられる仕事が増えますから。フィギュア・スケートで言えば4回転ジャンプのようなもの。イタリアで師匠と1年以上発声だけを勉強して、それを手に入れることができたと思います」

言葉を話すニュアンスで歌いたいというその声は実に自然で、無理な作り込みを感じさせない。1984年生まれの32歳。「イタリア人のように歌う、いや、イタリア人を超えなければいけない」。その視線は、洋々たる新たな地平を見据えている。

公演は2月15日(水)から19日(日)まで東京文化会館 大ホールにて。

取材・文:宮本明