ロッカーやラッパーなど、ミュージシャンによるオススメの本を5冊、音楽好きなライターが紹介させていただきます。

選んだのは、いずれもここ一年ほどの間に出版された近著ですが、著者の音楽性も作風も個性豊かで、バラエティーに富んだ内容になるように選びました。どの本も面白く、読み始めたら止まらなくなる本ばかりです。

巧みな描写力と「カッコ良い」を追い求める、男の美学が交錯する傑作エッセイ集! 『昭和UFO』(セイジ/ギターウルフ)

シンプルかつ骨太なロックンロール、そして、ワイルドなステージングを武器に、オンリーワンな輝きを放ち続けるロックバンド、ギターウルフ。

世界を股にかけたワールドワイドな活躍を続ける同バンドにおいて、ギターとヴォーカルを担当するセイジ(著者名は、本名の「阿武誠二」名義)さんの初エッセイ集が、この『昭和UFO』です。

この本には、セイジさんのブログ『フジヤマシャウト』で公開された記事の中から、厳選された89篇の文章が収録されています。

ブログでは、時節やバンドの活動状況に合わせて、多種多様なエピソードが綴られているのですが、書籍版では、時系列が整理され、セイジさんの幼少期から現在に至るまでを追い掛ける形がとられています。

以前から、その特異な美意識や言葉感覚がロックファンから高い評価を受けていたセイジさんですが、この本の中でも、その世界観は徹底されています。例えば、各章のタイトルからして、凡人のセンスとは一線を画しているのです。幾つか、引用をしてみましょう。

「ザリガニ惑星」「マグニチュード・ブルース・リー」「雨の訪問者、高田馬場三畳一間」「アマゾン・ピラニアン食堂」「暑中お見舞いエイリアン」……。

ギターウルフの名曲、名盤と同じく、そのぶっ飛んだネーミングセンスが先ずは目を引くサブタイトルの数々。これだけでも思わず読んでしまいたくなるような引力に満ちているのですが、セイジさんが書く文章の真価は、その卓越した描写力にこそあります。

どこまでも熱く、ダイナミックな爆発力を有する一方で、繊細さも併せ持つセイジさんのタッチで叙述されるのは、時に、少年時代のノスタルジックな記憶であり、時に、青春時代の甘酸っぱい思い出であり、時に、バンドのツアーで訪れた異国の風景であり、時に、自分の好きな物を熱っぽく語る熱狂者としての視点であり、時に、セイジさんの奔放なイマジネーションによって生み出されたロマンたっぷりな空想の物語であったりします。

そして、そのいずれもが読み手の頭の中に、セイジさんが描き出す景色をありありと浮かび上がらせるような文章としての力強さを有しており、その熱っぽくも巧みなタッチは、この本の特徴を決定付けています。情景描写や心理描写など、何かを"描き出す"才能に満ちたセイジさんの文体は、本好きならば絶対に楽しめるかと思います。

更に、幼少期から現在に至るまで、ひたむきに「カッコ良いもの」を追い掛け続けるセイジさんの生き様は、とにかくパワフルで、読んでいるだけで元気を貰えます。

特撮番組のヒーローや、バイクやにブルース・リー、そして、何よりロックンロール。「カッコ良いもの」に惹かれ続け、やがて、バンドという表現媒体を手に入れたことで、自分自身が多くの人から憧憬と尊敬の念を送られる「カッコ良いもの」になっていく姿は、ただただシンプルに感動的であり、ギターウルフのサウンドと同じく、受け手の心を滾らせるエネルギーに溢れています。

文章の巧さと、まるで原始の炎なような熱が組み合わさった素敵な本です。読み終わった後に、思わず心の中で「ロックンロール!」と叫びたくなる一冊!

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