特にこうした他人との比較で物事を見る傾向は、女性に強いのです。男性はあまり相対的に物事を見ませんので、女性のように辛さを感じることはまれなのですね。

そのため、たとえご夫婦で不妊治療に取り組まれていても、この感覚は共有することが非常に難しい。

ですから私もこの手の話題は、おうちでダンナさんに話すよりもカウンセリングルームに持ってきてください、とお伝えしているのですが、それだけこの悩みは、とりわけ不妊治療中の女性にとって、孤独で、重くて、自己嫌悪もより深くなりがちといえるかもしれません。

――「公共の場での授乳」を控えてほしいという声には、そんな背景もあったのですね……「うらやましくて耐えられない」というだけでなく、孤独や、自己嫌悪まであったとは。

菅谷:しかし、ひとたびその心の声を外に向けて発信してしまうと、別の問題が起こります。心の中で何を思っても自由ですが、相手に対して発するのは慎重にならなくてはいけません。

ここが「公共の場での授乳」論争を考えるうえで、大きなポイントになってくるのではないでしょうか。

社会のなかでどう振る舞えば?自分の心を守ってあげることも忘れないで

菅谷:「公共の場での授乳」を目にして、我慢するか、我慢しないか、どちらに寄せた態度をとるか……結局は、それぞれが選ばないといけないのだと思います。

心の中は自由です。しかしどう振る舞うかということは、その方の選択です。

逆の、お子さん連れの方々も同じですよね。私たちの行動は、選択の連続なのです。

「うらやましい」という感情自体は悪いものではありません。しかし、その感情をどのように扱って自分をコントロールし、少しでも人間的に高めていくか。これは、きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、とても大切なことなのではないでしょうか。

毎日のカウンセリングを通して、たくさんの患者さんと出会い学んで、そんな風に思っています。

――では実際に不妊治療中の方から「公共の場での授乳」についてご相談があった場合には、どのようにお答えになっているのでしょうか。

菅谷:時と場合によって変容するとは思いますが、心理学では、イヤだな、辛いな、という状況からは逃れてよい、と考えます。

「電車の中で赤ちゃんが隣に来るのが耐えられない」という患者さんには「場所の移動」を勧めています。見たくない光景は「見ないような状況を自分に与える」ことで解決できることもあるのです。

「耐えられない!イヤだ!」と感じることは自由ですし、悪いことではありませんが、それと同時に、自分自身が傷つかないように守ってあげることも必要なのです。

とはいってもどうしても、場所を移動できないこともあります。そういった例は枚挙に暇がありません。

「温泉に行こう!」「海外旅行をしよう!」と出かけてみたら、新幹線にも飛行機にもホテルにも、どこへ行っても子連れがいっぱい、どこが少子化なんだよ~と思った、というお話はよく聞きます。

子どもを諦めようと考えたご夫婦が「この先ふたりで暮らしてゆくためのマンションを買おう!」とモデルルームに行っても、キッズルームがあったり、赤ちゃんがたくさんいたり。